「それ 来月からなんですよ」
出典元、原作:久住昌之、作画:谷口ジローの漫画「孤独のグルメ」1巻より。甘味屋の店員のセリフ。
「孤独のグルメ」は主人公の井之頭五郎が、毎回淡々と食事をするシーンを、五郎の脳内ナレーション感想と共に楽しむ漫画である。1巻の出版はかなり昔だが、カリスマ的な人気を博し、長年に渡って売れ続けた。テレビドラマ化もされ、連続シリーズとなり、結果的に現在のグルメ漫画ブームの火付け役となった事は間違いない。
しかし今回のセリフは、たまーにある、常識のなっていない店の不親切対応についてである。甘味屋に入った五郎がメニューを見る。甘味屋とはいえ、空腹を抱えて来たので、まずは雑煮なりうどんなり主食を食べてから、デザートの「豆かん」を食べる算段を五郎はしていた。そしてメニューにあった主食になりそうなものから、「煮込み雑炊」を選ぶ。しかし……、
「スイマセン この「煮込み雑炊」をひとつください」
「あ… ごめんなさい それ 来月からなんですよ」
と無情な却下をされてしまう。問題は……、メニューにそんな事は書いてない点である。それしかない。
簡単に言えば「客に恥をかかせてはいけない」のである。五郎はそのあとも「煮込み雑煮」を頼んでみるものの、それも来月からだったので断られた。もちろんメニューにその記載は無い。五郎はがっかりするのだが、人によっては怒っても仕方ないし、周りの状況によっては恥ずかしいやり取りである。当然ながら、文句の一つも言いたくなる。「書いておけよ」と。
これは飲食店において、常識なのではないかと思う。期間が決まっているとはいえ、今出せない商品をメニューに当たり前の様に載せておくべきでは無い。上にシールでも貼っておけばいいし、「○月限定!」とでも書いておけばいい。そんな事は簡単だし、簡単でなくてもそれを頼んで断られる客がいるという事は客に恥をかかせるという事である。店員にとって、自分の店は毎日の様にいるから緊張するものでもないだろうが、客はたまにだとそれなりに緊張するし、初めてならかなりの勇気を出して入店しているのである。その一段を思い切って入って来てくれた客に対し、店側の手抜きで恥ずかしい目に遭わされたのでは堪ったものではない。常識のはずだが、飲食店を経営している人には頭に入れておいて欲しい重要なポイントである。暗黙のルールがある店もあるだろうが、それを知っている客ばかりでは無いのである。
ちなみに、この様に勇んで注文した品を断られたときに発生する脳内ナレーションは、因果律により確定している。
「がーんだな…出鼻をくじかれた」
である。
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