「よしなに」
出典元、屋宜知宏の漫画「レッドスプライト」1巻より。主人公、タツ・フラムトの決めゼリフ。
「レッドスプライト」は週刊少年ジャンプで最近連載された漫画ではあるが、いわゆる短期打ち切りになってしまったのであまり長い作品ではない。全14話。単行本も2巻しか出ていない。無論、人気がなかった為に打ち切られたのだが、ただ、最近あまりない熱い王道要素をいくつか取り入れていて、打ち切り漫画にしては、打ち切りを悲しむ声が多かった作品だったのは確かだ。なので追悼の想いを込めて、ここで取り上げたい。
まあ2巻しかない上に一つのエピソードに何話か使ったりしているので、とても深いところまでは作品自体で掘り下げられていない。そこは目をつむるとして、熱い要素がいくつかある。
まず、世界観と主人公の立場。エデニア国という悪の帝国が支配する世界、雷髄人間という特殊な人間のいる世界で、その人たちは帝国に、人権を無視して拘束され、機械の様に電力として使われていた。主人公と6人の仲間も雷髄人間だったが、小さい頃に先生にかくまわれて遠い地で仲良く暮らしていた。しかしついに見付かってしまい、先生は死に、タツ以外は帝国に捕まってしまう。ここから数年後、主人公タツ・フラムトの帝国への逆襲が始まる。王道とはいえこの、巨大な帝国へ戦いを挑むシチュエーションには燃えるものがある。また、主人公と仲間は特別に強力な雷髄人間という事で、最初から強い。主人公が一人でいきなり皇帝の前まで行って宣戦布告をしたことからもうかがえる。
そして仲間集め。その特別に強力な能力を持っている仲間を集めて戦力を整えつつ、帝国と戦っていくストーリー展開だったと思われる。残念ながら2人集めたところで話は終わってしまったが、この「強力と分かっている仲間を集める旅」というのはこれもまた熱いシチュエーションである。漫画「七つの大罪」と似たところがある。こういう仲間集めはさっさと集まってしまうのもよし、少し集まったら最後の数人は引っ張るだけ引っ張るのも良しである。
次に、主人公がひるまない事。帝国に宣戦布告した際、主人公は皇帝、というか最高指導者の近くまで行っている。あとでなぜその時に倒してしまわなかったかと聞かれるが、タツは平然と答える。
「いや小生もついさっきまで自分が最強かなと思ってたんだけど あの壇上にいた将校たち そして最高指導者デイビッド・アトラス 小生の動きを捉えていた」
つまり敵側にも自分に匹敵する力の持ち主が多数いた事が分かった。しかしタツは全く臆さないのである。血が騒ぐ、とワクワクするだけである。少年漫画だけに、主人公もせいぜい小学生か中学生ぐらいの年齢である。この辺りは漫画ならではだが、タツには「長年掛けて準備してきた」、「何があってもどうにかしていく」の感じが出ていて、それがなかなかに堪らない。
決め手は通称である。子どもたちが遊ぶ時に、「おれがタイショーだ」、とか「さすがみんなの大将だな」などと呼ばれることがある。タツは帝国に挑む時に自ら「大将」を名乗るのである。「みんなの大将」と軍隊の階級である「大将」を掛けている。これがニヤリとする演出と言わずして何と言おうか。そしてタツ・フラムト大将の一人称は「小生」であり、彼の決めゼリフはこれである。
「よしなに」
戦争ごっこを本気でやっている感がとても微笑ましく、また、熱いものがある。ロールプレイとも言えるが、子どものやっている本気の戦争、という意味で漫画らしいストーリーだと思った。彼は帝国を倒すというより、世界中の雷髄人間を救うために戦いを挑んだのだから。ところどころつたない部分があったにせよ、もう少しストーリーの続きを見てみたい作品であったと言える。