「待て素人め…」
出典元、尾田栄一郎の漫画「ワンピース」442話より。サンジのセリフ。
ワンピースではたまに、ほのぼの日常シーンが描かれる。これはウォーターセブン編が終わり、スリラーパーク編の始まる辺りでのひとコマで、ルフィとウソップが釣りを楽しんでいるところである。フランキーが加入してすぐ、そして船がサウザンドサニー号に替わったばかりの頃なので、皆新しい船の新機能を満喫していた。長らく連載しているワンピースだが、取り立てて事件のない日常シーンはそれほど長く描かれる事はない。しかしたまにこういったシーンが入ってくれると、航海しているんだという空気が伝わって来て心地良い。そして航海中はこういった日々を過ごしているんだなあと、想像を膨らませるのである。船で冒険してるんだから、釣りだってするさ。
麦わらの一味にとって、メリー号からサニー号への乗り換えは新居に移り住んだと言ってもいいだろう。特にサニー号はフランキーがこだわりぬいて設計し、ガレーラの精鋭と作り上げた船である。素材に宝樹アダムを使っていたり、コーラで空を飛んだり、ソルジャードックシステムといった大きな売りもあるのだが、基礎的な部分についてもなかなかワクワクさせられる造りがある。その一つが今回のシーンで描かれた、生け簀(いけす)水族館、アクアリウムバーだろう。釣った魚を甲板から生け簀に放り込めば、その生け簀は階下のサロンからまるで水族館の様に観賞出来る造りになっている。船の中に水族館があるという、ロマン溢れる設計である。
ここではルフィとウソップがサメを釣り上げて、生け簀に放り込んだ。意気揚々と降りて来る二人だが、下ではサンジがおかんむりである。さもありなん、それまでに釣って生け簀に放っていた魚たちが、すべてサメに食べられてしまっていたのである。共存を考えろとルフィたちに怒るサンジ、丸焼きにしてやるとサメに怒るルフィ。それをサンジが、そうじゃないとばかりに止めて言うのである。
「待て素人め…」
そしてまたワンピースの冒険が凄く楽しそうだと思える要素の一つに、サンジの料理がある。サンジは”一流コック”、料理の達人なのである。一味は作中、たびたびサンジの料理に舌鼓を打っている。サメは珍しい食材だろうが、ここでサンジは言うのである。
「せっかく新鮮な魚だ 寿司か… 湯ざらしにして… 辛い酢ミソでいくのもいい 天ぷらもオツだな」
丸焼きもいいが一流コックが提案する素敵な料理方法に、ルフィも大興奮である。
「んまほーー!! 腹へってきた」
実際にサメ料理で調べると、寿司もあるし湯ざらし(湯引き)して酢ミソでいただく方法もあるし天ぷらもある。丸焼きのロマンも捨てがたいが、なんでもかんでも丸焼きでは芸がない。ファンタジーな世界観ながら、こうしたちょっとしたシーンで雑にせず玄人な選択肢を見せるのも、ワンピースの凄いところだろう。ギャグっぽく描かれているサメだが、そう言われるとちょっと食べてみたくなる。
そしてこのサンジのセリフを実際に使ってみるのも面白い。納豆にタレを入れてかき混ぜようとする人に、
「待て素人め…」
先にかき混ぜてからタレを入れると混ざりやすいんだぞ、と言うのである。バイキングで一周目にカレーライスやスパゲティを食べようとしてる人に、
「待て素人め…」
ご飯もの麺ものは控えめにした方がいいぞ、と言うのである。居酒屋で焼き鳥を串からそのまま食べようとした人に、
「待て素人め…」
こういうのは串から外してみんなで食べやすくするんだぞ、と言うのである。うん。……どう考えても顰蹙を買うだけのやつだ。
やはり”一流コック”の真似は、難しかった。