「全身全霊… 限界突破!!!」
出典元、尾田栄一郎の漫画「ワンピース」783話、もとい、週刊少年ジャンプ2015年20号、最終ページの煽り文より。
漫画雑誌とコミックとの違いはいくつかあるが、その一つが煽り文(アオリ文)のありなしである。週刊誌なら一週間に一度発売され、20作品ほど掲載されている。これは良く出来たシステムで、人気作とセットで買わせる事で、まだまだ新人だったり人気の出ていない作品が埋もれる事なく、同列に見てもらえる機会を得る事になる。せっかく雑誌を一冊買ったなら全部読んでおこうという消費者の心理に付け込んだ上手いやり方である。まあ、それでも飛ばされる漫画も多いだろうが。
そして、人気作、それ以外とは関係なしに、それぞれの作品のページ数は週刊なら20ページほどだろうが、毎回その終わりに”引き”を作らなければならない。これは意識して読んでいないと気付かない部分だが、どの作品もしっかり最後は言ってしまえば「次どうなるか!?」の展開をたくさんのバリエーションを駆使して入れて来ている。一話完結スタイルは別だが、世に無数あるストーリー系漫画の雑誌の最終ページは全て”引き”で終わっていると言っても過言ではない。
そしてその”引き”に、編集者が煽り文を載せるのである。上から被せたり、柱と呼ばれる横の余白スペースに書き込まれる場合もある。これは雑誌時にしか載らず、コミックになると消されている。コミックならページをめくれば続きは読めるので、必要ないという事だろう。そして、コミックでは無くなる事、編集者が挿入している事を考えて、これは作家の作品とは別の次元の一文である。コミックでは存在しないのだから、全体的にはおまけレベルであるし、作家性とも関係がない。まあ、雑誌で読む分にはあった方がいいのだが、必ずしも綺麗に決まるものでもないし、編集者が入れているので期待するほどのものではない、けれども存在する不思議な文化である。
その煽り文の会心の出来とも言えるのが今回の一文である。
「ワンピース」、今やあえて詳細を語る必要もないほど有名な、日本を代表する大人気漫画である。この783話は、主人公ルフィと敵であるドフラミンゴの最終決戦のまっただ中である。これまでのルフィの攻撃がどうも効かない、いなされる。糸がこんなに強いとは……。やりすぎなぐらいの強さにルフィは新技の発動に踏み切る。
「――”ギア”」「”4”(フォース)」
そしてジャンプ掲載時に付けられた煽りがこれである。
「全身全霊… 限界突破!!!」
ついに来た! 何百話振りかの新しいギアである。そして783話はこのページで終わる。強敵との死闘、苦戦、そしてまだ見ぬ新技の発動、このシチュエーションに付けられるまさに最高の煽り文ではないか。熱い、非常に熱い終わり方である。コミック派の人は見ていない事になるが、非常に秀逸な煽り文だったと言えるだろう。
なお、「ギア2(セカンド)」、「ギア3(サード)」と分かりやすくゴムの特性を生かした一時ブースト技を生み出してきたルフィだが、さあ「ギア4(フォース)」でどんなものを繰り出すか、この時ワンピースファン界隈はこの話題で持ちきりになった。ついでに次号休載であったため、そわそわする人たちが日本中に大量に発生してしまうというあわあわな状態にもなった。しかしそれを納得させる結果を、「ギア4(フォース)」は魅せてくれたと言えるだろう。見た目的に多少、賛否両論があったものの、「すげぇ、ゴムならこれが出来るか!」はさすが長年温めてきただけの事はある素晴らしい発想だった。
しかしやはりどのギアにも、使った後の反動がある。まさに
「全身全霊… 限界突破!!!」
の戦いとなったのである。