「メニューは全てステーキに統一される」
出典元、板垣恵介の漫画「バキ」より。アリゾナ州立刑務所の看守のセリフ。
週刊少年チャンピオンで連載されている板垣恵介の「刃牙シリーズ」は、格闘漫画である。しかし方向性として、武術や格闘技としてリアリティのある戦いをするというよりは、キャラの魅力とその場のノリで展開を押し通す、ライブ感満載の漫画と言えるだろう。「誰が最強か?」的な事もやっていたが、途中からは、ひとつ強大な敵を打ち立てて、それにバキの常連キャラクターたちがどう立ち向かうかという形式を取っている。長年の連載で魅力的なキャラクターも増え、その知名度から格闘漫画を代表する作品と言ってもいいだろう。ちょっとアレな展開だったとしても「バキはそういうもの」と、それを楽しむファンも多い。
が、バトル部分とは別のところで、作中に時折登場する食事シーンがやたらと美味しそうな事に定評のある漫画でもあるのである。絵のタッチと料理の相性が良かったのだろう、非常に美味しそうに描かれた料理と、「モニュ…」「ナポ…」などの独特の擬音、ガタイのいい格闘家達がおちょぼ口で白目を剥いて食べるのが「バキ」の食事で、とにかくインパクトが強い。「バキは料理漫画だ」と冗談で言われる事もあるぐらい、”美味しそうな食事シーン”に定評があるのが「バキ」なのである。
第2シリーズ「バキ」に登場したビスケット・オリバは、アメリカの刑務所でVIP待遇を受けて暮らしている囚人である。 出入りは自由で食事も超豪華、恋人まで囲っている。囚人なのにVIPとはいかに、という話だが、警察と繋がりがあり、頼まれて凶悪犯の逮捕に協力したりしている。そして、やろうと思えば自力でいくらでも外に出られるため、そういう待遇になっているらしい。それにしたって待遇が豪華過ぎるが、まあ、そこら辺は、漫画なんでね……。
オリバはこの作品に登場するクセの強いキャラの中でも、特にクセの強いパワー特化型マッチョキャラである。パワーにかけては漫画表現の限界まで見せつけてくれる。ショットガンで打たれてもちょっと血が流れるぐらいのタフネスさで、しかもそれが凄い早さで快復する。その快復方法がまさにこれである。
「ミスターは傷を負ったようだな 怪我をされたときはいつもそうだ」
「メニューは全てステーキに統一される」
「肉とワイン…………… それだけ食し傷をふさぎ 快復させる…………」
食事をステーキとワインだけにして、10kgほどのステーキを食べてしまう。そして数時間後には傷が塞がり始めているという、超人的な肉体を持つキャラなのである。非常に分かりやすい漫画的なシーンだと言えるが、漫画のシチュエーションというものは、どんなに現実離れしていたとしても絵とキャラのインパクトと共に読者の記憶に強い印象を残してしまうのである。つまりどういう事かと言うと、現実でケガをしてしまったり、痛めてしまって早く治したい時、そういった時に……頭をかすめてしまうのである。
そうだ、ここはステーキとワインだ、と。
怪我を治すのにステーキとワインが特に効果的という科学的根拠はないが、それは理屈ではなく気持ちの問題である。ステーキとワインって、なんだか肉体と血液っぽいし! そもそもケガを治すのに食事は必要だし、気合いを入れるつもりでここぞとばかりにステーキ屋を訪れる人も多いだろう。そして、日頃からワインを飲まない人でも、ステーキ屋でステーキを食べるシーンになると、なんとなくワインを飲みたくなる謎の現象まで発生してしまうのである。もちろんそんな時に、ライスもサラダも必要ない。
「メニューは全てステーキに統一される」
のである。
本ページの情報は2023年3月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。