「現在公開可能な情報」
出典元、諫山創の漫画「進撃の巨人」より。コミックスおまけコーナー。
「進撃の巨人」のコミックスにはエピソード間に差し挟まれている情報コーナーがあり、それがこの「現在公開可能な情報」である。ストーリーに直接影響はないものの、読者にとってなかなか気になる部分の情報を公開してくれるため、コミックスを買ったかいのある嬉しい要素である。この世界における馬の価値だったり、どうして壁がこんな形になっているのかなどを解説しており、「あれ一体どうなってんだ?」と思っていた読者の好奇心を満たしてくれる。こういったおまけ要素は色々な漫画がやっている仕組みだが、その面白さや充実っぷり、ありがたさによってコミックスの購買意欲がかなり変わる事はあまり意識されていない。雑誌で読んでいる人がコミックスも買うという事の意味が、出版社にあまり理解されていない。
「進撃の巨人」は、謎に満ちた世界観が特徴であり魅力である。謎はストーリーが進むにつれて次第に明かされていくのだが、判明の仕方や順序が重要なので、どのタイミングでどこまで公開するかという部分には細心の注意が払われている。しかしストーリーに影響のない情報ももちろん存在するので、読者にとって興味深くも、いちいち説明していてはストーリーのテンポに支障のある情報がここに回されているのだろう。作者からのメタ視点で「今、語れるのはここまでです」と読者に伝えている「現在公開可能な情報」、このネーミングがニクい。
ここで公開された情報の中でも特に興味を引かれるのが立体起動装置の機構だろうか。作中、キャラクターたちは当たり前の様に飛び回っているが、なかなかに「あれ一体どうなってんだ?」感が強い。なにせ壁内に電気は存在しないのである。また、ワイヤーに注意が行きがちだが、ガスも非常に重要で、ガスがないと行動不能になるぐらい制動に大きく影響する要素となっている。作中でも何度か、ガス欠でピンチに陥っている場面が見られる。
そして問題はワイヤーの先に付いているアンカーだろう。どんなものにでも刺さり、二人分ぐらいの自重は支えられるにも関わらず手元の操作で簡単に抜ける。どんなものにでも刺さるというのは恐ろしい話で、巨人の硬質化で出来ている壁にも刺さるし、超大型巨人の歯にすら刺さって固定出来た。そして抜く操作に関しては、絵を見せられているにも関わらず、いまいちどうなっているのかが分からないという謎っぷりである。傘を畳むように閉じて抜いているのだが、それであんなに自由自在に抜けるかぁ……?
立体起動装置に使われているガスはずっとあとになって名前の出る、氷爆石(ひょうばくせき)というパラディ島でしか採れない燃料を使っている。また、アンカーとブレード、そしてボンベには、本編でまだ名前は登場していない黒金竹(くろがねだけ)という植物が使われている。これはスピンオフ作品「進撃の巨人 Before the fall」にて登場していて、あの世界観の作品を原作者の諫山創が監修していないはずがないので、公式設定なのだろう。
黒金竹は金属より堅い白銀色の”竹”なので、つまりあのどう見ても金属の部分は皆”竹”だったという衝撃の事実である。ジークがキヨミに言っていた、パラディ島にしか存在しない
「巨人の力で生み出した燃える石や光る石」
がこれに当たるのだろう。巨人を倒すべく戦っている人間が、世界の真実を知る前から”巨人の力をルーツにしたテクノロジーを使っていた”という、なかなかに皮肉の利いた設定である。この二つと巨大樹の森辺りが、巨人の力を使って自然に影響を与えた、パラティ島にしかないものだと思われる。立体起動装置の細部にまで世界の謎が反映されているという設定厨もにっこりの漫画、それが「進撃の巨人」である。
「現在公開可能な情報」というこんなただの日本語も、「進撃の巨人」というこれだけヒットした作品で使われてしまうと、別のところで別の人が使った時に「あ、あれだ」と思われてしまう。「ここで終わるはずがないのに」もそうだが、こんなちょっとした言い回しにまでセンスを光らせ、結果として影響力を与えてしまうのが凄い。「進撃の巨人は」間違いなく歴史に名が残る作品だが、そういった作品だからこそ、神は細部に宿ると言わんばかりの設定を組み込めるのだろう。