「学者に神の話でもしに来たなら―― 論文を最低7つは引用して存在を証明してからにしろ」
出典元、池沢春人の漫画「ノアズノーツ」より。考古学者の主人公、ノア・ミナミ・アンバーバックのセリフ。
「ノアズノーツ」は2018年に週刊少年ジャンプで連載されていた漫画である。「ものの歩」の作者、池沢春人の新作という事でヒロインの可愛さに注目が集まったが、若干アイドルマスター(シンデレラガールズ)っぽいという事で一時期一部界隈がざわざわした。
ジャンルは冒険考古学ファンタジー。現実世界を舞台にしていながら、10万年前の2022年に一度滅亡した人類がループし、現在は二周目の2018年で、4年後の2022年に再び人類は滅亡しループする……という世界観だった。それを防ぐべく、主人公のノアとヒロインのミライがその原因を探って行くというストーリーである。やや分かりにくいものの、設定としてはなかなかにキャッチーであり、疑惑からまさか……と続き、10万年前の寂れた横浜みなとみらい遺跡が登場した第一話のインパクトはなかなかのものだった。
こういう初めから凝った世界設定の漫画というものは、ある程度きちんとした設定の骨組みがあるはずである。なので次第に明かされていく真実を繋げながら、世界滅亡の謎を追って行くといった展開になれば熱い。……のだが、実際は凄い勢いで敵対する勢力が登場し、マフィアだの謎の秘密結社だのが主人公たちの邪魔を始めて急にバトル要素が強くなる。こういうものは、さじ加減もあるのだが、「人間vs大いなる存在」をテーマとする物語で、調査の邪魔をして来る人間側の存在ほど面倒なものは無い。もちろん多角的な思惑を絡めて、物語に厚みを持たせる施策自体はいいのだが、少なくとも序盤にでしゃばってしまうのはまずいだろう。なんというか、主軸である大いなる謎の解析から話がブレてしまう。そこが読者の心を掴んでいるというのに。
しかし連載していたのは「週刊少年ジャンプ」、あっという間にバトル展開になり、しかしメインの二人はバトル用のキャラでもなかったのでなんやかんや知的に対応しつつ、都合のいい強い仲間が登場したりもしつつ、よく分からない冒険をしながらやっぱりバトルは続き、謎解き要素は薄まりまくり、全22話であっという間に打ち切りとなった。ジャンプだからバトル展開になったという見方も出来るが、バトル展開にせざるを得ないほどストーリーが弱かったとも言える。一話の勢いで引っ張り続けられれば良かったが……、いかんせんキャラがコミカル過ぎたか。
今回のセリフはせっかくなので、主人公ノアの決めゼリフから。敵対する秘密結社の男、モネに追い掛けられ、遂に追い付かれた時のセリフである。ちなみに超煽り顔で上から目線で語っている。なかなか格好良かったが一瞬の輝きだったと言わざるを得ないのが悲しいところである。……学者だよな?
「…いかにも ノア・M・アンバーバック…考古学者だ」
「学者に神の話でもしに来たなら―― 論文を最低7つは引用して存在を証明してからにしろ」
惜しいな。でも、こんな短期打ち切りになるぐらいだったら、「ものの歩」を続けていれば良かったのに。