「ただ頑張るだけが 覚醒するより弱いって誰が決めたんだよっ!!」
出典元、田村隆平の漫画「べるぜバブ」より。主人公、男鹿辰巳(おが たつみ)のセリフ。
バトル漫画には王道の展開というものがある。敵との戦いで劣勢になった時に、味方がやられたり、酷い侮辱をされたり、血が目覚めたりして”覚醒”し、それまでとは打って変わって凄まじいパワーを発揮して逆転勝利する展開である。よくあるパターンなのによく使われているのは、とにかく爽快だからである。たくさんのバトル漫画を読んでいると「あ、このやられっぷりは……」と展開が読めて来たりもするが、読者の望む展開かと言われれば実際そうなので、”王道”としてこれは今後もなくならないものだろう。しかしその場は収まっても後々パワーバランスに歪みを生じさせる可能性の高い諸刃の剣でもある。それをいろいろと理屈を付けて説明するのも漫画家の腕の見せどころでは、ある。
そしてそれを真っ向から否定したのがこの男鹿のセリフである。実際にこのセリフを叫んだバトルでも、かなり劣勢に立たされていた。敵側に圧倒されていた。しかしそこで、あ、これは覚醒する展開だな、と読者の誰もが思ったところでまさに読者にフェイントを掛けて来た。男鹿は覚醒せず、ただ頑張るだけでパワーアップして、敵を倒したのだ。
「ただ頑張るだけが 覚醒するより弱いって誰が決めたんだよっ!!」
いやまあ、確かに……。
しかしそもそも「べるぜバブ」という漫画自体がちょっとだけパワーバランスがおかしい漫画なのである。元々最強クラスの主人公という設定はあちこちで見掛けるが、結局そこで白熱するバトルを展開するには主人公と同等以上の強敵を出さなければならない。「べるぜバブ」も主人公の男鹿は初めから最強クラスの設定である。しかしそこで、魔界からの敵など強敵を出現させ、勝ったり勝ったり、しかし時には負けたりしながら修行してさらなる強さを手に入れ、さらなる強敵と戦っていく。……そのバランスが少し変。いや元から強い、しかもベル坊という魔王の息子のパワーを借りているので強いのは当然なのだが、普通の漫画ならここは負けるかな、という展開で意外と勝ってしまうパターンが多いのである。しかし意外というのは単に他の漫画と比べての意外という意味なので別に正解などないし面白ければいい。負けそうな展開でも意外と勝つ、その意外性が「べるぜバブ」の特徴かもしれない。端的に言うと、通常のバトル漫画より主人公の勝率がちょっと高い。これに似た印象を受けるのは「終わりのセラフ」とかだろうか。
それから少しだけ「メタ要素」でもある。つまりこのセリフは、周りのキャラクターだけでなく読者に対しても言っている。連載雑誌は「週刊少年ジャンプ」である。まさにバトルものの王道が載っていてふさわしく、細かい設定とかいいからスカッとやってつけてもあまり目くじら立てておかしいおかしい言われない雑誌でもある。そこで言ってしまうのが格好いいというか、「あ~、言っちゃった」というか、まあ、よくやったものである。怒られる様なものでもないが、やや作品世界から、はみ出したセリフである事は確かである。一応、作中で直後にラミアがつっこんでいるので載せておく。
「メチャクチャゆってる」
然り。