「ここに 長時間いると みんなが求める いつも元気で 明るいマリベルでいられなくなるわ。」
出典元、ゲーム「ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち」より。ヒロインであるマリベルのセリフ。
世に「マリベル名言集」というものあり。いや、ないし。いや……、あったとしても個人がまとめたものだろうが、あってもおかしくないぐらい、たった一つのゲームに登場する、いちキャラクターであるマリベルのセリフは名言の宝庫なのである。興味がある人は探し……、探求してみるといい。
「ドラゴンクエスト7」は、ドラクエシリーズの正式なナンバリングタイトルとして発売された。滅茶苦茶売れたのでプレイした人も多いだろう。ゲームとしてはちょうど2Dと3Dの狭間の時代に初代プレイステーションで発売された事もあって、ドラクエとしてはグラフィックに難があったな、という思い出のあるプレイヤーも多いかもしれない。「6」まではスーパーファミコンで2Dのドラクエらしいドラクエグラフィック、「8」はプレイステーション2でがっつりポリゴン描写された3Dグラフィックになったからである。しかしこの「7」は、2Dっぽく見えるけど画面を回転出来る、3Dのゲームである。いいとこ取りに聞こえるが、ハードが初代プレイステーションだった事もあり、なかなかに画像が粗く、そしてドラクエお馴染みの探索要素として街の隅々まで見て回りたいプレイヤーとしては回転までさせるのが面倒くさい、グラフィックの面では惜しいゲームだった。というか綺麗なら綺麗でやりがいもあるのだが、そこで画像が粗いと少々ストレスが溜まる。
しかしそれを補って余りあ……、補ってくれるのがマリベルというキャラクターである。というか仲間と「はなす」システムである。
いや、というかマリベルと「はなす」システムである。キーファやガボなどほかの仲間もいるが、キーファは貴重な常識人枠なので物語進行に必要なまともなセリフを言う役回りが多い。ガボはアレだし、ほかの仲間もまたアレなので。エンターテイメンに全振りしているヒロインのマリベルとの会話が、「ドラクエ7」の「はなす」システムの真骨頂である事は間違いないだろう。ドラクエシリーズの伝統で主人公はプレイヤー自身であり、名前を付けることが出来て、発言しない。有名な話だが、この”自分が主人公の分身である”感じを良く出すため、逆に周りの街のキャラクターはどんどん話し掛けて来るのがドラクエの特徴である。……ところに、さらに味方キャラクターからの話し掛けてくれるシステムが、「ドラクエ7」の「はなす」システムの売りだろう。似ているものでは「テイルズ オブ」シリーズの「スキット」システムがある。が、顔や表情まで表示され声まで出る「スキット」ほど凝ってはいないが、その替わりセリフ量が膨大なのが「ドラクエ7」である。「はなす」コマンドを使用すれば、訪れた街の特定の場所でしか聞けないセリフが聞けるし、さらに戦闘中も可能で、メタルスライムが出た時のリアクションや、「どく」や「まひ」を食らってしまった時のリアクションまで用意されているのだから大したものである。
マリベルは、ドラクエシリーズのキャラクターとして、「4」のアリーナや「5」のビアンカなどと比べ知名度はやや低めと言える。しかしプレイした人にしか分からない魅力は、本当にクセになる。村長の娘であり、高飛車でナルシストで、でも時々しんみりした事を言うズルいキャラである。しかしそれが、ストーリーを追ってずっと話していると、狙って言っているのではなくマリベルのキャラなんだな、と思わせる説得力があるところに、開発者の力量を感じさせられる。堀井雄二のライターとしての腕を思い知らされる。カテゴリーとしては「ツンデレ」というやつなのだが、そんな用語も存在していない時代に、そんなキャラクターを生み出していたのだ。まさに”自分が主人公”ことドラゴンクエストの真骨頂、一緒に冒険するヒロインとの会話がこれほど楽しいとは、と思わせる一作だった。
「ここに 長時間いると みんなが求める いつも元気で 明るいマリベルでいられなくなるわ。」
こんなセリフが使い切りなのである。ここでしか聞けない。というか「山肌の集落」の病人がたくさん倒れている特定の場所で「はなす」をした場合にしか聞けないのである。そしてそんなセリフをバンバン放ってくれるのがマリベルなのである。魅力的で、生意気で、ナルシストで、反則的で、唯一無二のキャラクター、それがマリベルである。
……伝わらない気がするが、列挙しまくるのもあれなので、やはり気になる人は「マリベル名言集」を探してみるといいかもしれない。