「一気に飲み干した」
出典元、チュンソフトのゲーム「街 ~運命の交差点~」より。細井美子のシナリオ、「やせるおもい」にて表現された地の文。
ゲーマーには有名なゲームだが、「街」は元々セガサターンのゲームである。「弟切草」、「かまいたちの夜」でサウンドノベルというジャンルを拓いたチュンソフトが世に出した、3作品目のサウンドノベルである。それまでのシルエット芸とはうって変わり、実写を用いるという手法でユーザーを驚かせた。システムにおいても、複数の登場人物のそれぞれのストーリーを追いながら、同じ”街”で行動しているので影響を与える事があり、それを「ザッピングシステム」と言い革新的な手法を用いた。評価は非常に高く、ファミ通の「読者が選ぶTOP20」というコーナーに時代が変わっても延々と載り続けていたのを覚えている人も多いだろう。
その「街」のシナリオの一つ、細井美子のシナリオで放たれたセリフ、ではなく地の文が今回の言の葉である。「一気に飲み干した」。ただそのままであるが、前の展開を見ていくと衝撃度が上がって行く。太り気味の細井美子は恋人の洋一に、5日間で17キロ痩せろ、痩せなければ別れると言い渡され、その無茶なダイエットに挑むのである。そして汗をかくエステだったかと思うが、体を動かさずに汗を出すタイプのダイエットをしたあとの事だった。終わったのでそこを出て、とにかく喉が渇いた細井美子。自動販売機で2リットルペットボトルのウーロン茶だかを購入。2リットルのペットボトルを売っている自動販売機も珍しいが、まあたまに見掛けるだろう。その後の行動と、そこでの地の文が、もちろんこれである。
「一気に飲み干した」
あぁ……。確かその直前に体重が2キロほど減っていたのを喜んでいた気がする。しかしそのエステだかは、水分が抜けただけなのである。運動して脂肪を燃焼させた訳ではない。つまり、水分が2キロ減ったところに2キロの水分を取れば、体重は元に戻るのである。……というかそもそも、2リットルのペットボトルをラッパ飲みである。しかも一気飲みである。そのインパクトが凄まじかった。そして一連の行為に罪悪感もなく、やり切った感を出して満足する細井美子に戦慄を覚えざるを得ないシチュエーションだった。どんなに喉が渇いていたからって、一気飲み出来るものなのか、2リットルって……。
「街」は非常に複雑に絡み合ったシナリオで、それもゲームなので人によって攻略する順序が違ってくる。フラグ管理がこれほど面倒なゲームもなかなかないだろう、と素人目にも感じてしまう造りである。そんな中に、当然シリアスなシナリオとキャラクターがいて、ミステリアスな雰囲気のキャラもいて、こうして細井美子の様な緩いキャラもいる。そしてそれが複雑に絡み合っているというのだから、作った人たちは大したものだし、作ろうとした人はよく実行に移せたと思う。しばらくの間、続編的な話が出なかったのも、作るのが大変だという理由が大きかったのだろう。役者を使うと弁当代が大変だ、とプロデューサーの中村光一が言っていたのを覚えている。弁当代だけでなく、こういう小物も予算を付けなければならない。つまり、一気に飲み干される2リットルのウーロン茶である。