「キャプテンキャプテンホーク」
出典元、ゲーム「ロマンシング・サガ」より。キャラクター命名の悲劇。
「ロマンシング・サガ」はスーパーファミコンのゲームで、フリーシナリオシステムという、当時画期的な手法で話題になった。「サガ」シリーズ自体はゲームボーイからの派生のため、ついに据え置き機で大画面、カラーで遊べる「サガ」という事で非常に注目されていた。「ロマンシング・サガ」という名前も格好いい。略して「ロマサガ」。シリーズとしてはひらめきシステムも有名だが、技のひらめきは「ロマンシング・サガ2」からなので、いわゆる「ロマサガ1」にひらめきシステムは無い。しかし「ロマサガ」シリーズに共通しているのは、フリーシナリオシステムと、主人公が8人の中から選べる事である。
「ドラゴンクエスト」がRPGブームを巻き起こし、主人公イコール自分、という仕組みもたくさんのRPGで真似をされた。RPGの主人公の名前は自分の名前にするものだ、という前提が数々のゲームで取り入れられ、始めに決めるパーティメンバーも決めねばならず、家族や友達の名前を付けた人も多いだろう。主人公は自分であるから自分はしゃべらない。「はい」か「いいえ」、あとは諸々の選択肢を選ぶだけで、会話は完全に受け身となるシナリオが多かった。なにせ、勝手にしゃべられたら自分ではなくなる。しかし時代と共にストーリーが濃くなって行き、それに従い主人公が全くしゃべらないとやりにくい部分も出て来たのである。そこで各社は妥協点を探り始める。
この「ロマサガ1」が非常に分かりやすいが、8人の主人公にそれぞれの環境が初めから用意されている。冒険者だったり、遊牧民だったり、森の番人だったり、海賊だったりする。そこから特定の一人を選ぶ事で、選んでしまったらもう後はその環境から始まる事が確定している。しかし逆に言えば、バラバラの環境で8パターンある訳で、1本のゲームで8パターン遊べるとも捉えられる。そしてその、固定された設定の妥協点として、名前だけは変更出来るのである。取扱説明書にはグレイ、アイシャ、クローディアなどしっかりキャラ設定が記載されている。そこはいじれない。キャラもそれに合わせて自分でしゃべる。しかし名前だけは、変えられる様になっている。つまり、ギリギリの妥協点である。プレイヤーも、ここまで決まっているなら、無理に自分の名前をつけて海賊を「キャプテンまさかず」などにするよりも、大人しくキャラ設定通りの「キャプテンホーク」で行こうと考えるものである。
そして悲劇は起こる。8人の主人公の中から、海賊である「キャプテンホーク」を選んだプレイヤー。名前設定画面は、空欄だった。取扱説明書にある通り「キャプテンホーク」と入力。ゲームスタート。主人公が名乗りを上げる。
「レディラック号の船長
キャプテンキャプテンホークだ!!」
っておおおいいいいい!
キャプテンはデフォルトで付いちゃうのね……。そこはもうちょっと分かりやすくしてはくれまいか。……まさかこのまま続ける人もいなかっただろう。始めたばかりだし、大人しくリセットして「ホーク」と入力するプレイヤーが多数、存在したという。100万本近く売れているので1/8ぐらいはキャプテンホークを選び、まあ半数ぐらいはやってしまったと思われるので被害者の総数は想定5万人である。歴史に残る、大した悲劇である。