「いちにつどん」
出典元、不詳。意味、「フライングするな」。
団体行動というものがある。それなりの大人数が一堂に会し、同じ事をする訳だ。当然、なにかを行うなら時刻は決まっている、あるいはタイミングを合わせなければならない。大勢がその意識を持ち、心を緊張させていなければならない。分かりやすいところでは短距離走のスタート時。そう、「いちにつどん」とは「位置について、よーい、ドン!」の、略である。失敗例の。
短距離走ならせいぜい10人ぐらいなのでタイミングは合わせやすい。というか指示する側が従わせやすい。しかしこれが大人数のマラソンとかになると、そうはいかない。学校のマラソン大会など、記録の残る公式な大会ではないのでワイワイした気の緩んだ状態になりやすいし、各々が各々のタイミングで心と身体の準備を整えている。「さあ、そろそろ時間になりました」。仕切る先生が列を整える。「そこ、もうちょっと詰めて。はいそれでOKです」。隊形は整ったかな? それじゃあ、と、ここでうかつな言葉を発してはいけない。いわゆる「よーい、ドン! って言ったらスタートね」である。真面目な場面でそれを言う人はいないだろうが、思わずそれに近い言葉を発すると混乱が生じる。「じゃあいいかな、位置についた?」。ここで「用意いいかな?」などと言ってはいけない。あっ、位置について、よーい、って言った、スタートダッシュしなきゃ、って思った生徒が走り出したらもう大失敗。前が動いたらもう止められない。後ろの人は「あれっ、スタートした?」と思いつつも続いてしまう。先生も諦めて「ああもう、じゃあスタート!」、号令もなくマラソン大会の始まりである。これが「いちにつどん」。
もっと規模の小さい事象でも発生する。レストランでメニューを選んでいる時、A君はもうメニューを選んだ。Bさんは「どうしよっかなー」と悩んでいる。「あ! これ美味しそう」、ピンポーン、「でもこっちもいいなぁ、あれ、もう呼んじゃったの!?」。「あ!」に反応してA君が呼び鈴を押してしまった。呼んでおいて片方は決まっているのに片方がまだなので帰ってもらう、という選択は日本人はあまりしない。Bさんはまだ迷ってるにも関わらず、「あ!」のメニューを注文するのである。不幸な出来事である。これも「いちにつどん」。
飲み会の席でも、幹事がカンパイの音頭を取るのだが、一度社長にあいさつを振る場面などあるだろう。社長の話が一段落した、か、最後に良いことを言って締めるか、際どい間。社長はもうひと言あった、綺麗に締めたかった、が、幹事が判断ミス! 仕切る為の大きな声で「社長、ありがとうございました! ではみなさん今日は楽しみましょう、カンパイ!」なんてやったら時間はもう戻らない。みんなで「カンパーイ!!」。社長だけしょぼーんである。
しかしこれらは注意力の問題である。しっかりと注意を払い、タイミングを計っていれば間違える事は少ない。強いていえば、個人の資質の問題だ。フライング気味の性格の人というものはいるのである。タイミングを読むのが下手。なんとなく全体の準備が出来たっぽい。「もういい?」、聞いた瞬間スタートしてしまうのである。返事を待てよとみんな思うし、まだよくない人もいた場合支障が出る。なにをする時かの問題だが、とにかく一人ではない時に、迷惑の掛かる見切り発車をしてはいけないのだ。そういう失敗をよくする人は、意識しておいた方がいい。度々やると、周りからこう思われる様になる。
ああ、またこの人、「いちにつどん」やってるよ……。