「やっちゃいけないストレッチってないんで」
出典元、不詳。どこかの整体師の発言らしい。
肩こり、腰痛など、一日中席についてパソコンをカタカタしているオフィスワークの人に、運動不足から来る体の不調を感じている人は多いだろう。やはり本当にずっと動かないのが体に良くない事なのは、医学的にではなく直感で分かる。学生時代は、体育の授業という強制的に体を動かすシーンがあるため、もう完全になーんにも体を動かさない、という状況にはなりにくかった。しかし仕事は”仕事なので”優先順位が仕事になってしまい、体調管理は自己管理になってしまう。じゃあ自己管理すればいいという話だが、それはそれで面倒なので、よっぽど自分に厳しい人でないと、なかなか手を付けられなかったりする。
その思考にほのかに浮かぶ、”素人が適当にやっちゃいけないし……”の考え。これが、「やれなくてしょうがないよね」の気持ちを後押ししてしまう。やった方がいいんだろうけど、ちゃんとプロにレクチャーを受けたやり方じゃないから不安だよね、だからまた今度。やった方がいいんだろうけど、適当にやってスジを痛めたりしたら大変だから慎重に考えないとね、だからまた今度。やった方がいいんだろうけど、誰がやっても大丈夫なそういうストレッチとか調べるの大変だし、だからまた今度……。そういう考えを持っていないだろうか。自分に対する説得力満載の言い訳。
それに、実際に整体とかに行って教わったりしても、ストレッチの種類が多過ぎる。この一連の動きをしてください、10種類あります。各2セットずつ、1セット30秒頑張ってくださいね。……はい。この紙に書いてあるんで、と渡されても、分かりにくい絵でやるのが面倒臭いというか覚えるのがキツイ。せめて3種類ぐらいでさぁ、今の自分に特に足りてない運動やストレッチを、なるべくシンプルに、集中的に出来れば、やるんだけど……。
いいのならあるよ、ネットに。
正確にはYouTubeにあふれている。動画なんていうのは再生数を稼いでナンボであり、そして視聴者を集めるのに”視聴者の求めている事”をなるべくやろうとする。どういうのを見たい? え、じゃあ肩こりに効くストレッチを動画で教えてくれるやつ……、はい、あります。そのストレッチの30秒をちゃんと30秒そのポーズのまま動画を流してくれるところまである。便利な世の中になったもんだ。そして高評価の動画は大体において本物のインストラクターや整体師がレクチャーしているのだから安心である。でも本当に大丈夫なの? 素人が勝手に……。そこに、プロの整体師の、このひと言である。
「やっちゃいけないストレッチってないんで」
やっちゃいけないストレッチは、ないらしい。さらに、
「それ以上やったらまずいのは痛いから自分で分かるでしょ」
である。そりゃそうだ。そりゃそうか? いや……、そもそもが難しく考え過ぎなのか。思い返せばラジオ体操だって自分の裁量でやっていたし、泳ぐ前の準備体操だってなんとなく自分でやっている。たまの伸びなんて言わずもがな。自分がこれ以上曲げたらまずいなんて事は、他人に言われるまでもなく直感で自分で分かる。”適当に”が悪いのではなく、”なんとなく”も悪い訳ではない。”あれこれ考えてなにもしない”のが一番悪い。しかし、これは真実の一つなのではないか。
別に、そう、ちょっとでもいいし、全種類じゃなくてもいい。こういうストレッチがあると調べたら、場所と時間の許す範囲で、やれるだけやればいいのである。10分きっちりやれば100%の効果が得られるストレッチがあり、でも今は3分しか取れない。だからやらない。のではなく、3分やれるだけやって、30%の効果を得ればいい。考え方の問題だが、少なくとも完全に無駄という事はないだろう。やっちゃいけないストレッチってないんで。