「よろしい。速度を26ノットまで上げて計算をし直せ」
出典元、映画「レッド・オクトーバーを追え」より。潜水艦レッド・オクトーバーを追っている潜水艦の艦長のセリフ。
詳細は忘れたが、クルーが艦長に対し、20ノットぐらいでこの進路で追いかけるとこのぐらいで捕捉出来ます、といったセリフに対する、艦長の返答命令である。クルーはここでギョッとする。つまり、「よろし」くない。よろしくないからもっとスピードを上げろと指示を出すのだし、ギョッとするのはその海域を潜水艦が通過するには危険すぎるスピードだからである。実際、そういうやり取りはあるが命令は覆らない。レッド・オクトーバーを追っている潜水艦内での話である。
どうしてこう、潜水艦に限らず戦闘中の艦長というものは、無茶を言うのか。しかしまた、この”冷静に無茶な指令を下す”シーンというのも格好いいものであり、大体の場合において多少アクシデントはありつつもその指示が正しく、成功するのである。というか、まず艦長の考えが正しいのではないだろうか。経験によるものとも考えられるが、必死に無茶な命令をこなそうとするクルーの操船技術も無視してはいけない。
この”艦長は無茶ばかり言う”というのは、おそらく、現実世界ではこのようなリアルな艦内の戦闘光景を、まず一般人が見る事が出来ないからだろう。実際にはもっと慎重なはずだ。一般人の目に入るのは、映画や漫画などの創作作品の中での艦長像である。小説にしろ映画にしろ、現実より突飛な展開にしなければ、面白い話にはならない。「レッド・オクトーバーを追え」も原作は小説であるが、非常に有名で評価されている作品である。実際、非常に面白い。
潜水艦というものは乗り物の中でもかなり特殊な存在である。船や飛行機は戦争以外にも使われているが、潜水艦はあくまで戦争の兵器だ。おそらく、外が見えない、乗り心地が悪い、狭い、うるさく出来ない、などの要素が一般人の観光に向いていないからだろう。戦闘方法も特殊で、”視認”というものがないので耳による確認が主となる。ソナーを打って相手との位置を確認を確認するのだが、そのソナーを相手も耳を凝らして探しているので、こちらにも分かるが相手にも分かる。魚雷発射口の入り口が開く音まで聞こえるというから大したものだ。そのような環境で読み合い、化かし合い、音を消しての潜伏など、好きな人には堪らない戦闘とも言えるが、やはりやや特殊だろう。
船体も脆い、というか水圧があるので穴が空いただけでほぼ終わり、という普段から極限状態である。簡単に速度を上げろと言っても岩礁にでも海底にでもぶつかったらおしまいな速度だってある。しかし、そこでその無茶な命令を下すほどの使命を帯びているからこそのその命令であり、クルーも必死にそれを全うするのである。
「よろしい。速度を26ノットまで上げて計算をし直せ」