「さあ面白くなってきた」。
出典元、不詳。オンラインゲーム内でのあるプレイヤーのセリフ。
あいまいな部分もあるが、オンラインゲーム内でパーティを組み、強大な敵モンスターを倒すミッションに挑んだ際に放たれたセリフである。が、肝はそのセリフが放たれたタイミングである。
敵はとても強く、最適な構成、それぞれの役割に応じた動き、各自できるだけ高級な強い装備、そして数時間に一回しか使えない技、さらには一回使うとなくなる高級な回復薬など、考え得る全てのできることを駆使して挑まなければ勝てない相手だった。オンラインゲームの性質上、勝てる作戦は先人がネットに上げている。その勝利の方程式を、ランダム要素も含めてどれだけ再現できるか、本当に各自が作戦を完璧に把握していなければ勝つ事はできない。
ここまでのレベルの戦いの場合、一度、試しバトルが行われる。負ける前提の戦いである。高級薬品や数時間に一回しか使えない技は使わずに、まず相手の動きを見て、味方の動きを確認し、負けるにしてもどんなものか観察するのである。あわよくば勝ってしまえと思う気持ちもあるが、その気持ちを吹き飛ばす敵の強さで結局敗退する。しかし動きは分かった、タイミングも把握した、ミスさえなければ、例え少しミスしてもなんとかやれるはずだ。よしみんな準備はいいか。本番だ。
死力を尽くした戦いである。今日はもう二度使えない技を完璧なタイミングで繰り出し、攻撃、回復、支援と最適な動きをする。極限バトルならではの、高級回復薬も惜しみなく使う。技は使い切り、薬も使い切り、あともう少しで倒せる。しかし……、そこでミスがあった、いやミスとも言えないほんの少しの不運、盾役が倒される、そこが崩れるともう戦線が維持できない。次々と倒される仲間たち。回復役も切り札を使うが、盾役がすぐに戦線復帰できるべくもなく、敗れ去る。
敗戦後。惜しかった、けどダメだったか。みんな、時間はまだあるけど……。休憩して体力は戻ったものの、一度しか使えない技は今日はもう使えないし、薬品も使い果たした。ネットの作戦はもうそのまま使えない。考えられる作戦は? 盾役だけじゃなく攻撃役もたまに盾役をやって受けるダメージを平均化し回復の負担を少しでも、少しでも減らす。吹き飛ばされるような技は、回復役はイレギュラーな動きだけどその瞬間だけでも逃げて、でもすぐ戻って回復もおろそかにしない。通常の攻撃だけじゃなく、じわじわダメージを与えるような魔法もありったけ使う。もう曲芸レベルだけど、やるだけやってみよう、さすがに無理だと思うけど、やるだけやってみよう……。
「さあ面白くなってきた」。
今回のセリフはこのタイミングで放たれた。これを世に虚勢、強がり、空元気などと言うが、勇気の出る言葉でもある。やってみよう! 成功したら俺たちヒーローだ! 集中するぞ、敵の動きを見て、味方の動きも見て、できる限り正確に動くんだ……。そして最終戦、もう何も残ってない、しかし経験だけは活かしたバトル。ボロボロになりつつも彼らは勝利を収めたのである。結果的に見れば、最後の戦いが本当に極限の極限バトルだったと言えよう。
仲間と共に簡単には勝てない敵に挑みは負け、工夫し、何度も挑み、最後には勝利する。これがオンラインゲームの醍醐味である。