「アッパー昇龍」
出典元、ゲーム「ストリートファイターII」より。連続技の特殊な出し方の名前。
「ストリートファイターII」といえば対戦格闘ゲームの金字塔である。対戦格闘ゲームのブームを作り出した火付け役であり、その後の格闘ゲームに非常に大きな影響を与えた。単に格闘ゲームといえばそれまでも色々あったが、真横からのアングル、完全な一対一の対戦という絞り込んだ要素でここまで熱いゲームになるとは、まさに世紀の発明だったであろう。
そして必殺技である。「波動拳」、「昇龍拳」、「ヨガフレイム」など、コマンド入力してからの必殺技は、ただの小パンチや大パンチとは違う、派手で高威力な技でこれを出すために世の少年たちはアーケード筐体に100円玉を投入して腕を磨いた。やった事のある人は分かるだろうが、波動拳を撃とうとしてジャンプしてしまう、昇龍拳がどうしても出なくて波動拳コマンドをガチャガチャやってたまに出る、など、初心者には本当に難しい。それだけに、腕を磨いて強くなる要素でもあり熱中する人を量産した。まあ必殺技辺りは完全に初出という訳ではないが、他のゲームでコマンド入力を聞かれた際に「ああ、それ波動拳パンチ」、「それはヨガフレイムキック」のように使われたぐらい、元祖的な存在にはなっている。否、過去形ではなく現在も使われるほどだ。ただしヨガフレイムは本家が変わってしまったので混乱するかもしれない。
そして「アッパー昇龍」である。いわゆるキャンセル技と呼ばれるものだ。例えば技にはモーションがある。リュウというキャラでしゃがんだ状態で大パンチをした場合、アッパーをする訳だが、構え、アッパー、アッパーの戻り、というセットでアッパーが行われる。アッパー部分は攻撃しているがアッパーの戻り時はつまり隙である。フリーな状態で攻撃を受ける際、スティックを後ろに入れると防御が出来るので、対戦格闘ゲームとはつまりいかに相手の隙を狙ってこちらの攻撃を当てるかの駆け引きである。が、「アッパー昇龍」はアッパーが当たるまでに昇龍拳コマンドを入力する事で、アッパーの戻りをなくして、「キャンセル」して、昇龍拳を繰り出すという連続技である。確かヒットしていないと発動しなかったはずだ。
しかしこれは「ストII」において、アッパー昇龍でしか出来ない。バグだったという話もある。そんな事が出来る、という話が出始めてから、ゲームセンター界隈ではアッパー昇龍を出すべく幾多の猛者がそれに挑戦し、成功すればギャラリーからの喝采を浴びた。そしてその後、対戦格闘ゲーム業界はキャンセルの仕組みをどんどん導入していく事になる。「ストII」の続編では色々な技でキャンセルが出来る様になったし、同じカプコンの「ヴァンパイア」、競合メーカーだったSNKも「餓狼伝説」や「キング・オブ・ファイターズ」でいち早く取り入れ、ユーザーもそれ前提に腕を上げ、熱中していく。
普通のパンチを一発でも食らうと相手の腕によっては続けざまに必殺技まで確定で食らってしまう、という厳しいシステムではあるのだが、まずそれを決める難易度が高いし、決めた側の爽快感がたまらなかった。ものによっては0.2秒ほどの間にレバーが行ったり来たりするようなコマンド入力を要求される。誰もが毎回確実に決められるものでもないし、人間相手の対戦なら駆け引きもある。防御もあるし、防御した相手を投げることも出来る。カプコンとしては、この後「オリジナルコンボ」や「ガードキャンセル」、「ブロッキング」など従来の駆け引きを壊さない上でさらなる駆け引きを楽しめるように、進化を続けて行った。しかしやはり最初の「キャンセル」の発明、「アッパー昇龍」の偶然発生は、非常に大きかったと言えるだろう。
バグから生まれたかもしれないという話もあったが、これは「神は細部に宿る」なのか? に通ずるものとして考えていいだろう。「偶然の産物」が近いかもしれない。……あ、本当に近いかもしれない。
本ページの情報は2023年3月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。