「苦しいのは 今この時だ」
出典元、漫画「ROAD~輝ける道~」3巻より。主人公の一人、室堂武司の心のセリフ。
「ROAD~輝ける道~」は駅伝漫画である。
そのスポーツをやっていなくても、やっている人に伝えたくなる言葉というものがある。それが、こういう言葉だ。
駅伝、マラソン競技は見ている側にとっては単純に写るので、戦略や駆け引きよりも、実力や精神面での影響が大きいから、と思ってしまうからだろうか。真偽の程は分からないが、この言葉を教えてあげたいのは確かである。
「ROAD~輝ける道~」のストーリーは、学生から社会人まで参加する駅伝の、5人のランナーの視点で描かれる。どういった理由からか、同じ学校や実業団からではなく、この5人はバラバラのところからの混成チームとなった。混成チームで優勝を狙うなど例がない事らしい。抜きつ抜かれつしつつ、最後の室堂にまでタスキがつながる。1位を争う展開だったが、期待の若手に抜かれ、差を付けられてしまった。そう、室堂は29歳、ランナーとしてはかなりベテランの域にいる年齢なのである。
室堂にはつらい過去があった。オリンピックで代表に選ばれかけたが選ばれなかった事。その後、選手として脂の乗ったいい時期に交通事故に遭ってしまった事。リハビリを経て復帰出来たものの、もう年齢は29歳になっていた。復帰を賭けての今回の駅伝出場だった。抜いていった選手は室堂よりずっと若く、これからを期待される若手の選手である。まさに、引導を渡された気持ちになっても仕方のない場面だった。
室堂は自分に問いかける。俺はいつ苦しかったのかと。オリンピックで選ばれなかったのは……、悔しかったけど”苦しい”というのじゃなかった。交通事故だって、こうして復帰出来たんだから”苦しい”というほどのことじゃない。”苦しい”のは、”苦しい”っていうのは……、
「苦しいのは 今この時だ」
「先頭走者をつかまえるということ
高いレベルで優勝争いができるということ!
闘っているということ!!
苦しいというのはこういうことだ!!
望むところだ!!」
そして、淡々と、ペースを上げ、抜かれた若手を再度抜き去り、チームを優勝に導くのである。
苦しいのは今この時、そして望むところだ。これは競技者に取って、力を与えてくれる考え方だと思う。なんというか、当たり前が、当たり前じゃなくなる。マラソン競技は毎回終わったあと全力を出し切っている。案外、どのスポーツでもそうというものでもない。このタイプの競技にピッタリの考え方が、この「苦しいからもうダメだ」ではなく「苦しいのは望むところだ!」なのだろう。と、思う。