「先行入力」
出典元、対戦格闘ゲームなどで用いられるテクニックの一つ。及び、パソコン操作で遭遇する困った事態。
対戦格闘ゲームで使われるテクニックに、コマンド入力というものがある。素早い操作でレバーを下、右下、右と動かし、すぐさまパンチボタンを押す、といった操作である。これが「ストリートファイターII」のリュウで右向き時だと、波動拳の必殺技コマンドになる。たぶん知っている人には「当たり前じゃん」という話で、全く知らない人には「え、どういう事?」となる話だろう。思っているよりずっと奇妙な操作をしている。
対戦格闘ゲームでは、対戦する二人のキャラクターが向かい合って構えている。キャラの操作でレバーを右に入れれば右に進むし、左に入れれば左に進む。上下だって下に入れればしゃがみ、上に入れればジャンプする。しかしこれが一瞬のレバー操作となると、そう不自然でもなく一瞬だけキャラは”ククッ”と動き、必殺技が放たれるのである。これが広まった当時はなかなか出来る人が少なく、どちらかと言うと”レバガチャ”と呼ばれる適当にガチャガチャやっているうちにたまたま打てた、という人が多かった。コマンド入力の発明により、対戦格闘ゲームは操作のものすごい奥深さを手に入れた。発明した人は本当に凄い。
しかし必殺技のたびにいつも不思議な動作をしている訳ではない。流れるようにパンチのワンツーから必殺技を打つ事も可能で、それはコマンドを「先行入力」しているからである。対戦格闘ゲームのキャラクターには硬直というものがある。波動拳を撃ちながらしゃがみ強キックは撃てないし、強キックをしたらしたで、蹴り終わって硬直が解けるまで強パンチは撃てない。しかしそこで、ダウンの起き上がりに昇龍拳を打ちたい場合、起き上がってからコマンド入力するのではなく、ダウン中にコマンド入力しておけばいいのである。タイミングを見計らって、完了のパンチボタンを起き上がりに合わせれば隙がなく昇龍拳が放たれる。これが「先行入力」である。対戦格闘ゲームではよく使われる方法で、プレイヤーも考えながら使っているというよりは、自然と使っているやり方だろう。
……というのは対戦格闘ゲームの話だが、それをしない人も「先行入力」には遭遇する。
それはパソコンである。たまに遭遇するフリーズ現象に、この「先行入力」がつきものなのである。パソコンがキーボードやマウスの操作を受け付けなくなり、「固まった!」と焦った経験のある人は多いだろう。そうなった時についやってしまうのが、色々な場所のクリックである。閉じるボタンを何度もクリックしてみたり、別ウィンドウを開こうとカチカチしてみたり、マウスであっちをカチカチ、こっちをカチカチとクリックしてしまう。どうしようもないフリーズならもう再起動するしかないが、しかしそれが時間が経てば直るタイプのフリーズだった場合、フリーズから明けたパソコンに、
「先行入力」が遅れて実行される。
それは「あ、あ、あーーーー!!」という事態である。マウス操作で何が可能かと言えば、閉じたり開いたりするだけでなく削除や確定も可能なのである。フリーズ中に適当にクリックしていただけなので、早々おかしな事になるものでもないが、その保証だってない。作りかけの資料を保存せず閉じていたり、書きかけのメールを変なところに送信したりなどの誤操作が、ないとは言えないのである。フリーズが明けてからのクリックだけ適用しろよ、と言いたくなるが、こういうところにパソコンは融通が利かない。その上フリーズが開始してからクリックした全てのタスクが列を成して溜まっており、解除出来ずに順番に実行してくれるのだから大したものである。そうなってしまった時の対策は「Escキー」を押す事ぐらいしかないが、それも確実な話ではない。
教訓としてはパソコンがフリーズしたら、自分もまず一旦落ち着く事である。それから、待てば戻りそうか、操作で戻るなら試すべきか、今落としてデータは大丈夫か、開いていたウィンドウは思い出せるか、など頭に思い浮かべ、前進と後退を判断するべきだろう。見えていない状態でのガムシャラ操作ほど怖いものはない。ある意味、マウスの”レバガチャ”である。