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出典元、元任天堂社長の故・岩田聡氏の使っていた決めゼリフ。ユーザーに「直接!」情報をお届け。
岩田氏は、2015年に胆管腫瘍により55歳で亡くなった任天堂の元社長である。任天堂は長らく山内溥というゲーム業界、……いやゲーム産業の巨人が社長を務めていたが、歳も歳なので後継を選ばなければならなくなった。そこで選ばれたのが、その少し前にハル研究所から移籍して経営陣に参加していた岩田氏だった事で大きなニュースになった。山内溥は任天堂の社長としてゲーム産業の黎明期から見てきた人物だが、ゲーム自体にはそこまで触れていなかったと言われる。しかしここで岩田氏を選んだ判断というのは、人を見る目と勝負師の勘が、やはり素晴らしいものだったからだろう。
岩田氏が任天堂社長に就任してから、「Nintendo DS」、「Wii」が発売され、全世界を巻き込んだ大ブームとなった。かつて任天堂が起こしたファミコンブームも世界的なものだったし、ゲーム文化の火付け役だったが、売上を見れば「DS」と「Wii」はそれ以上だというのだからとんでもない話である。特に「脳トレ」に代表される「Touch! Generations」によるゲーム人口の拡大は、ゲーム業界のためを思って行われた施策として現在も息づいている。
さて、岩田氏が社長になってから手掛けたものはたくさんあったが、「ニンテンドーダイレクト」も大きな仕掛けの一つだったと言えるだろう。当時はどうしてもゲームの速報というものはファミ通やネットニュースが早く、任天堂が発表するニュースもほかの媒体を通しての発表となっていた。しかし時代は進み、イベントでの発表会をニコニコ動画など動画サイトで中継という事が可能になった。この中継が、特にゲームファンも多く集まっていたニコニコ動画では反響が大きく、「ニンテンドーダイレクト」が始まるきっかけだったと言われている。
メーカーが生の情報を動画で直接発表するのが一番生で濁りのない情報なのは間違いない。それをやるのも凄いが、なにげに「ニンテンドーダイレクト」というこの名前がチョーかっこいい。このプレゼンを、それなりに話題の人物である任天堂の社長がやっているのだから注目も集まる。
そしてその「ニンテンドーダイレクト」内で、岩田氏が持ち芸にしていたのがこの
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である。まあ情報を任天堂からユーザーに直接お届けする放送なので、そのまんまの意味なのだが、それを任天堂の社長がゲームの必殺技のごとくポーズを決めてかましてくれるのだからユーザーも大喜びである。最初の頃はなんとなくやっていたが、反響を知ってか次第に定番と化した。社長があまり前に出るものじゃない、という意見の人もいるが、そんなものはやり方次第であり、やや特殊な経緯で任天堂の社長になった岩田氏は、自分のキャラでもなんでも使ってやるという考え方で本人が直接出ていたのだろう。
岩田氏はアメリカで行われた講演、カンファレンスなどでも自ら英語でプレゼンをしていて、それも非常に好評を得ていた。トップが出て話す事自体が注目の集まるものだし、本人が英語で直接話すなんてのは少なくともゲーム業界では岩田氏だけだったのだからオンリーワンの貴重な講演である。岩田氏の英語は”ザ・日本語英語”であり、ネイティブな発音とは言えないものだった。しかしこれが、「ああ、通じればこういうのでいいんだ……」と思う日本人を多く生み出すというよく分からない副作用を発生させていて、微笑ましい話である。
しかし「ニンテンドーダイレクト」で使っていた、ツイッターの発音だけが、なぜか変にネイティブ混じりの発音になっており、岩田氏がツイッターの事を
「トゥイッター」
と言っていたのは、皆に愛されているエピソードである。