「チョップ」
出典元、日本人特有のものと思われるジェスチャー。意味は「ちょっと失礼」。
身振り手振りは欧米人がよく使うイメージで、特に肩をすくめる動作などは向こうながらではの効果をもたらす。しかし日本にも独特の動作があり、今回取り上げるのがこの「チョップ」である。格闘技の技ではない。主に他人の前を一瞬遮って通る時に、「すいませんちょっと失礼しますよ」の意味で使われる。なにもせずにスッと通ってしまった場合には相手もムッとするだろうが、「チョップ」をしながら通った場合には意味が伝わるので相手も怒らない。声を出さなくても良く、目も合わせる必要のない、高等テクニックである。
なぜ「チョップ」なのかと言うと、これはつまり手を合わせる所作を片手で行っているからである。たまたまそれが「チョップ」になるだけであり、手は空を切る。ややおっさんくさいものの、これ自体がそれなりに知名度と市民権を得ている部分があるため、独自の進化を遂げている様なところもある。すなわち、「チョップ、チョップ、チョップ」と繰り返し使う事で、より分かりやすさを上げたり、ほぼ動かしはしないものの、「チョップ」初期動作の手の形で意思を伝えたり、「チョップ」をせずに震わせたりして相手に伝えたり、である。動きの少ない「チョップ」は、身振り自体が周りを気にする様な環境、映画館で狭い席間を横切る時などに有効である。上級者になると「チョップ」をするという雰囲気を醸し出すだけで実際には「チョップ」をせずに、「ちょっと失礼」を相手に伝えたり出来る様になる。格闘技の達人同士が、動き出す前に”先(せん)”の取り合いをする場面に通じるものがある。ホントかいな。
しかし小学生が狭い店内で人の前を通る時、やるとしたらちょっと頭を下げての「ペコッ」だろう。「チョップ」だとやはりちょっとおっさんくさい。当然ながらなにもせずに通り過ぎる子もいるため、この辺りはマナーと教育の問題だろう。道幅も考えずに肩をそびやかして相手に避けさせて通る人がいる様に、ちょっとした事でも相手に不快感を抱かせる、抱かせないの差は出て来るし、しつけが行き届いているかは行動に出る。社会経験を積むほど配慮が出来る様になるものだが、どのくらいの世代から「チョップ」の使い手になるのかはよく分からない。
そして女性である。おっさんくさいので女性が使っている印象は少ない。どちらかというとこちらもお辞儀だろうか。大げさではないものの相手には分かる様に、かすかに頭を下げて通過する。これもまた相手に「失礼します」が伝わればいいので、お辞儀をするのかな、してないけどそんな雰囲気は出してるな、というだけで意味が伝わったりする。おそらく日本だけにある独自の文化だが、ある意味人混みをぶつかり合わずに行き交う系の、視界外の気配を読むテクニックが使われているのだろう。伝わればいいのだが、伝わらなければ意味がなく、しかし大げさにやってしまうのも恥ずかしいという思いがあり、ここまでギリギリのわずかな動きでのコミュニケーションが発達したのだと思われる。適当に言っているが。