「ガードキャンセル」
出典元、対戦格闘ゲームのテクニックより。略して「ガーキャン」。
ガードすると見せかけてしない技、ではない。
対戦格闘ゲームは二人のキャラクターが向かい合い、素手なり武器なりで戦うゲームである。奥行きのあるタイプや、地面を2D平面として自由に動き回れるタイプのものもあるが、基本的には向かい合った二人を真横から捉え、相対的に前後に移動して地上と上空の動きで駆け引きしつつ戦うのがメインである。この動きの制約が、対戦格闘ゲームを爆発的にヒットさせた面白さの肝と言ってもいいだろう。
キャラクターは自動的に相手のいる方向を向く。レバーを相手のいる方向に倒すと前進し、後ろに倒すと後退するが、敵が攻撃して来たときに後ろに倒すとそれはガードになる。つまり攻撃されている時には後退出来ない訳で、プレイした事のない人は感覚を掴みにくいかと思うが、対戦格闘ゲームとはそういうものなのである。
レバーを後ろに倒すと相手の攻撃をガードして防ぐ事が出来る。じゃあ無敵なのか、という話になるが、それは「打撃」を防ぐだけなのでその状態では「投げ」を食らってしまう。相手に密着して前にレバーを倒しながらパンチボタン、で相手を投げられる。厳密にはガードにも上段、下段とあり、またガード自体も通常のパンチやキックならダメージを食らわないが、必殺技だと少しダメージが通ってしまう。完全に無敵状態になれるものではない。ただ、対戦格闘ゲームには画面端というものがあり、障害物がなにもなかったとしてもステージとしてここまで、と決まっている画面端に追い詰められるとそれはボクシングで言う「コーナーに追い詰められる」状態と同じになる。ガードする側は使える手が少ないまま、追い詰めた側はガードされようが構わず怒濤の攻撃を続ける。
おそらくその状況への打開策のため作られたのが「ガードキャンセル」である。ガードそのものの時間は一瞬なのだが、相手の連打をガードし続けると身動きが取れなくなってしまう。パンチやキックの連打もあるし、必殺技で連続技になっているものでも食らう側は数秒間、ガードし続ける状態になるだろう。そこで物理法則としてはおかしいが、ガードしているキャラが”ガードのモーション中に限り”、ガードを中断していきなり必殺技を放てる仕組みが「ガードキャンセル」である。普通に必殺技を撃つのとどう違うのかと思うかもしれないが、通常、必殺技はフリーの状態でしか撃てない。空中でサマーソルトキックは撃てないし吹っ飛ばされている途中に百裂張り手は撃てない……。が、そこでつまり「ガードキャンセル」は、ガードが続いて硬直している最中に限り、ガードを中断して必殺技を撃てる仕組みなのである。
ここで必殺技限定になっているのは、おそらく通常のパンチやキックが「ガードキャンセル」出来たとしたらワンボタンで簡単に出せ過ぎて誰でもいつでも使えてしまうため、ゲームとしての体裁が崩れてしまうからだろう。必殺技というのはつまり波動拳や昇龍拳など、コマンドを使っての技なので、それをガード中の一瞬に入力すれば相手に痛烈なカウンターを浴びせる事が出来る。相手は相手で攻撃中な訳でその反撃にはガードが出来ず、つまり本来のカウンターが必殺技の威力で痛快に決まってしまう。登場当時は、それまであった対戦格闘ゲームの動きとは違い、ギョッとするほどの違和感があったが、しかし難易度の高さから来る発動時の爽快感がそのさらに上を行くものだったため、メーカーの垣根を越えてたちまち広まった。相手は食らってしまうと書いたがガード自体は飛び道具にも発動するので、離れていればもちろん食らわない。相手が近くにいる時に防戦一方な状況をひっくり返すべく使うのが「ガードキャンセル」なのだろう。
ガードの一瞬にコマンド入力する、それ自体が高難易度であるし、必殺技よりさらにコマンドの複雑な超必殺技でも使えたりする。ゲームセンターや大会など、ギャラリーのいるシーンで上手く決めた時は非常に盛り上がるだろう。現実では完全にありえない動きであり、対戦格闘ゲーム独自の動きだが、駆け引きに深みをもたらす、奇跡的な仕組みである。