「代打逆転サヨナラ満塁優勝決定ホームラン」
出典元、プロ野球の歴史に残る奇跡的なホームランの名前。打ったのは当時近鉄の北川博敏。
野球において、3点負けている状態で満塁になると、「ここでホームランを打てば逆転だな」という状況になる。「逆転満塁ホームラン」である。そこで早々打てるものでは無いとは分かっていても、大体の人は考えるものである。そしてこれが9回裏となると、「逆転サヨナラ満塁ホームラン」となる。これ自体はそこそこ発生するものの、野球の醍醐味と言えるほど盛り上がるレアケースである。9回表だと裏の攻撃が残るのでサヨナラにならず、9回裏でなければ打てないからである。しかもその9回裏、満塁になり、ホームランを打てる選手というのも決まっている。と言うか打てない選手もいる。何重にも重なった歯車が噛み合わないと、舞台すら整わない。
また、「釣銭無し」という用語があるが、例えば1点負けているところで満塁ホームランを打てば逆転して3点リード出来る。しかしサヨナラとなると試合は決してしまうので、ややもったいない部分が出てしまう。その気持ちが誰にでも生まれるから、この「釣銭無し」という用語が生まれたのだろう。つまり0対3で「逆転サヨナラ満塁ホームラン」を打てば4対3で「釣銭無し」の気持ちいい逆転勝利となる。「ピッタシだったら良かったのにな」と思わせない気持ち良さ、これも大事な要素であるが、もちろん狙って出来るものでは無い。野球とは筋書きのあるスポーツでもなければ個人スポーツでもないからである。
この時点で既に奇跡と奇跡の奇跡的な巡り合わせを必要としているが、今回の技はさらにトッピングがなされている。「代打」、はまあこの中では弱い方だろう。問題は「勝てば優勝の試合」である。そもそもペナントレース自体がそんな綺麗に「勝って優勝」とは行かない事が多いのである。2位が負けたら優勝、で1位のチームに試合のない日に優勝が決まってしまう年もあるし、負けたけど2位も負けたので優勝や、引き分けたけど2位が負けたので優勝など、スカッと爽快に優勝が決まる事はファンの望みであるが、早々簡単には行かないのである。マジック1の状態でソワソワするのは選手や監督だけでは無い。裏方もビール掛けや祝勝会の準備などをしているが、優勝しなければ空振りである。そしてもう一つ、本拠地での優勝というものも大事な大事な要素である。自軍のファンも多いし、特に球場の外のファンの数が圧倒的に違う。
そしてそんな贅沢なトッピング山盛りな事をやってしまったのが北川博敏である。2001年9月26日、近鉄バッファローズは本拠地の大阪ドームで、オリックス・ブルーウェーブ戦、勝てば優勝という試合、2対5と3点リードを許し、9回裏を迎えた。しかし打線は繋がりノーアウト満塁に。ここで梨田監督は代打に北川博敏を送る。何度かサヨナラホームランを打っているから、という事だったそうだが、ここで打ったらどうなるか、近鉄ファンはみんな期待しつつも「まあ、さすがにね」という気持ちで見守っていただろう。が、そこで振り抜いた一振りがプロ野球史上、現在まで唯一の名を冠されるホームランとなる。
「代打逆転サヨナラ満塁優勝決定ホームラン」
である。テレビで見ていた人も含めて日本中が大騒ぎになったのだから、現地で目撃した近鉄ファンはもう興奮の収まらない状態になっただろう。もちろん本人も打ったあと、両手でガッツポーズをしながら回転しつつ飛び跳ねて塁を回った。伝説の瞬間である。北川博敏もそれなりの生涯成績を残したいい選手だったが、北川と言えば「代打逆転サヨナラ満塁優勝決定ホームラン」だし、「代打逆転サヨナラ満塁優勝決定ホームラン」と言えば北川だろう。それぐらい奇跡だらけのシチュエーションに、見事結果を残したホームランだった。