「天空落とし」
出典元、ラーメン屋「中村屋」の店主、中村栄利が使用する湯切りの技。シュバッ、ザッシャァッ!!
……変わったやり方の湯切り。
と言ってしまうと元も子もないが、実際のところやっている事はラーメンの麺をちょっと奇抜な体勢で湯切りしているだけである。茹でた麺を鍋から上げて、ザッ、ザッ、と振るうあの湯切りを、ものすごく腕を持ち上げて勢いよく振り下ろす。近い体の動きを言うなら、円盤投げだろうか。ただ、その奇抜さが多少、話題になり、売りになり、ちょっと見てみたい人が店に押しかけるという、ラーメン屋としてはあまりない方向性での集客が成された。当時22歳で店を開いた若き店主、という要素もある。ラーメンの味がどうだったかは知らない。この技をひらめいたのは偶然だという話もあるが、それを目当てに押しかける客の前でやり続けたメンタルの強さは誇っていいものだろう。多少指さされはしただろうし、湯切りしているだけなのだから。
しかしなぜか、名前が妙に格好良い。自分で付けたか他人に付けられたか不明だが、格闘ゲームの技名っぽいというかRPGの技名っぽいというかイナズマイレブンのシュート名っぽいというか、とにかくただの湯切りに付けられた名前にしては格好良すぎる。……厨二病的とも言えるが。モーションを見ると「確かに天空落としだな」と思えるので非常にマッチした名前である。ネーミングの勝利。
そしてこの「天空落とし」がどのくらい味の向上に効果あるかが重要な点であるのだが、それはもう大喜利の様なものである。つまり事実は置いといて、本当っぽい事を言った者勝ちという、「それでいいのか」な展開である。高い位置から振り下ろした方がお湯の切れがいいとか、速度を付けた方がいいとか、一度で済ませると麺にダメージが行かないとか、そういうやつである。仕方ない、それは。あれが味に影響する、とてもいいやり方だったのなら、既に日本中に広まっているからであり、現実として広まっていないからである。が、まあ、そんなものはうだうだ言わないでも素人目にも分かる事だろう。ただのパフォーマンスである。どちらかと言うと悪影響がないか心配されているぐらいだが、それもまあ、問題ないだろう。通常の湯切りと大して変わらない。どうという事もない。それも素人目に分かる。
そうなって来るとこれは、見映えのするパフォーマンスが楽しめる、エンターテイメンなのではないか。そうなのだろうか? ……その通りである。これもまた集客方法の一つ。特にデメリットがなければ続ければいいし、客は楽しいからウィンウィンである。むしろこの様なパフォーマンスを”出来るのにしない”業界にこそ、問題があるのではないか。なんて事を、言いたくなるが、やっぱりそんな事もない。こちら方向にこじらせ過ぎるとそれは、「食べ物で遊んではいけません」警察に怒られる事になるからである。