「だがねえよ おめえにオレを越える・・ ミラクルはな!!」
出典元、原作:七三太朗、漫画:川三番地の漫画「ドリームス」22巻より。対常陽学院戦での、主人公久里武志(くり たけし)のセリフ。
「ドリームス」は野球漫画である。
一人相撲という言葉があるが、野球というスポーツでこれをやるのはなかなか難しい。それをするには漫画とはいえ説得力のある設定と、非常に緻密な試合運びが必要となる。だがこの「ドリームス」では、夢の島と常陽学院戦でまさに久里の一人相撲が行われた。「ドリームス」という漫画の真骨頂と言える試合展開だったと言える。
流れとしては、ピッチャーの久里が、敢えて初回に3点取らせた上で、あとは9回まで全て0点に抑える。そして打者として一番に入った久里が打席の回って来る4打席で1本ずつホームランを打ち4対3で勝つという、とんでもない試合運びである。この、思い付く人はいるだろうがなかなかできない試合展開を、敵と味方の駆け引きを行い、相手の実力もしっかり立てつつ描き切ってしまったのである。夏の甲子園、地区大会決勝の相手は甲子園常連校の常陽学院である。強力なエースに南東京屈指のスラッガー、選手の全体的なレベルの高さ、そしてもちろん、勝つためには容赦なく敬遠も使って来る。
ちなみに野球漫画によくある例に漏れず、この漫画も投球からヒッティングまでギャラリーがよくしゃべる。0.2秒と言われる投球中に、どれだけ早口なんだ、とつっこみたい気持ちでいっぱいになるぐらいしゃべりまくる。さらに大ゴマも使いまくる漫画で、それがこの漫画の魅力の一つでもあるのだが、今回のこのセリフも久里の一人ゼリフで、投球フォームとフキダシを分けて投球だけで4ページも使っている。この後、外野の解説が散々入り、それからやっと打者のターンである。1話まるまる使っての一球である。
そしてまた凄まじいのが、このセリフと同時に投げた球が、なんと球速の遅い球なのである。相手チーム最強の打者であり四番の大道との最後の対決で、一球目に153kmの剛速球を投げ、このセリフの二球目が123kmというとんでもない緩急を付けた球だった。この試合の大きなネタバレとなるが、久里は、”伸びる遅い球”と”伸びない速い球”を使って常陽打線を抑えていたのである。当然、……その二種類を投げられる投手はもう一種類の球を投げられる。最終的に次の三球目で”伸びる速い球”、この試合最速の155kmのストレートを投げ、大道を三振に抑えた。
久里は不良で、非常にチャラいキャラクターだが、こと野球のプレイに関しては真剣な面を見せる。そしてやはり野球漫画定番の”弱小高校が強豪校を倒す”という展開は燃えるものがある。舐められれば舐められるほど、それを打ち破った時の快感は大きいものだ。
「ヒヒッ 騒がしくなってきたじゃねえかよ 期待の表れだなァ 大道よ 打ち直してー 2ランホームラン打ってーーー 観客(まわり)はおめエにミラクルを望んでるとよ」
今回のセリフも、試合途中とはいえそれまでの展開が実際に”ミラクル”だったからこそ、映える、映える。
「だがねえよ おめえにオレを越える・・ ミラクルはな!!」
本ページの情報は2023年3月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。