「今 食べるべきだと判断しました」
出典元、諌山創の漫画「進撃の巨人」より。サシャのセリフ。
野球漫画では無い。などといちいち言わなくてもいいぐらい超有名になった、近年稀に見る大ヒットを起こした漫画、「進撃の巨人」である。少し前に、主人公エレンの変身する巨人の名前が9体いる巨人の一体、「進撃の巨人」だと判明し、タイトル回収を行っていた。しかし”巨人が進撃する”のも確かなので、ダブルミーニングなのだろう。ちなみにエレンの巨人である「進撃の巨人」は、他の巨人と比べて特にこれといった能力がなく、「特殊能力無くね?」、「どんな時でも進撃するんだよw」などとからかわれている。……いた。
しかしまあどんなにどんなに小さく見積もっても「進撃の巨人」は、歴史に残る名作となる事は間違いないだろう。これが「別冊少年マガジン」とかいう月刊の辺境誌から出て来たというのも面白い。「週刊少年ジャンプ」に持ち込んだが落とされたというエピソードもあるが、この漫画に限ってはジャンプで連載しなくて良かったと思わせる、いろいろな要素がある。週刊のペースでこの謎に満ち、伏線を散りばめたストーリーを描く事は困難だっただろうし、悪い意味でアンケート至上主義のジャンプでは新人作家の思い通りには描かせてもらえなかっただろう。それで月刊誌の「別冊少年マガジン」で現在も連載中であり、休載は確か一度もしていないが、もししたとしたら「別冊少年マガジン」の売上は米粒ほどになってしまうだろう。もちろん、連載が終了しても同様である。……他の連載作品ファンに怒られるのでこれくらいにしておく。
「進撃の巨人」の売れた要素はたくさんあるが、一番大きいのはもちろん一話からのインパクトある展開と、絶望的な世界観、それに立ち向かう人々、……、……と、まさかの合間に挟まれるシュールギャグである。意外とこれが話題をかっさらう。連載初期は画力の問題もあり誰が誰だか分かりにくいという声もあったが、その初期にあっても読者に強烈な印象を残したのが「芋女」ことサシャ・ブラウスである。
新兵が列になり、鬼教官から理不尽な恫喝を受けるという凍り付く様な「通過儀礼」の最中、サシャは教官の視線の先でまさかの「芋を食べ始める」という暴挙に出る。「蒸かした芋」である。それに気付いた教官とのやりとりが以下の通り。
「サシャ・ブラウス… 貴様が右手に持っている物は何だ?」
「「蒸かした芋」です! 調理場に丁度頃合いの物があったので! つい!」
「貴様… 盗んだのか… なぜだ… なぜ今… …芋を食べ出した?」
「… …冷めてしまっては元も子もないので… 今 食べるべきだと判断しました」
「…!? イヤ… わからないな なぜ貴様は芋を食べた?」
「…? それは… 「何故 人は芋を食べるのか?」という話でしょうか?」
シーンが凍るとはこの事である。本人たちは大マジメなのに、読者としては笑いが止まらないという、発明レベルのシュールギャグシーンの完成である。ちなみにこの前後の展開も芸術的に素晴らしい。他の漫画でこれに似た展開を描いたらすぐに真似したと思われるだろうし、それを多くの人が気付くほど「進撃の巨人」は売れている。まさに一回しか使えない発明である。サシャはこの後、当然の様に「芋女」のあだ名で呼ばれる様になり、同期の中では知らない者のいない有名人となった。連載当時も非常に話題になったし、アニメ化の際も皆このシーンを楽しみにした。
連載の続く「進撃の巨人」だが、そろそろ全体的に謎が解けて来て物語内時間も2年ほど経過し、終わりが近い感じもして来ている。しかし結末の落としどころがまだまだ読めないところであり、考察班はこれからも完結するまでは楽しい楽しい自説の出し合いを続けるだろう。そんな中でも、幕間に挟まれるシュールギャグは、まさに諫山創にしか作れない絶妙の味を出してくれる。名作の中に迷言あり、とでも言おうか。最後まで、シリアスだけでなくギャグも含めて「進撃の巨人」を堪能したいものである。
「今 食べるべきだと判断しました」