「蟲の王の弱点は心臓です・・・・」
出典元、松本光司の漫画「彼岸島 48日後…」より。自衛官、上原のセリフ。
「彼岸島 48日後…」は、「彼岸島」の続編の「彼岸島 最後の47日間」の続編で、吸血鬼の存在する日本を舞台としたサバイバルホラー漫画である。誤解を恐れず言ってしまうと、あまり深く考えないで読んだ方がいいタイプの漫画で、ライブ感というよりは惰性で連載が続いていて、おそらく読者も惰性で読み続けている。油断するとRPGのおつかいクエストみたいな内容になりがちなストーリーを、なんとか目的へ向けて進ませているが、キャラの生死も戦いの勝敗も全てが”作者のさじ加減でどうにでもなる感”が滲み出ているため、つまりあまり深く考えず読むのに適した漫画である。別に面白くない訳ではない。
「彼岸島」はシュールギャグの面白さには定評があり、命懸けの戦いをしていつつも随所に”設定が雑”なところがあり、登場キャラが大まじめにふざけた事をやっているという、狙ってるんだか狙ってないんだか分からないシーンはたびたび話題になる。「みんな丸太は持ったな!! 行くぞォ!!」のシーンは余りにも有名。
「蟲の王の弱点は心臓です・・・・」
敵地へ潜入したが失敗し、捕らえられていた自衛官の上原が、主人公の宮本明(みやもと あきら)たちに言ったセリフである。ほう、弱点が心臓――。だ ろ う ね。……ここで読者にそう思わせない迫力を出せるかどうかが勝負で、よく考えさせてはいけない。そう、ここに必要なのは勢いと迫力である。
国会議事堂に化け物の王様がいる、その周囲にも手下の化け物たちがたくさんいる、よし、地下から急襲して蟲の王を倒そう、でも蟲の王は巨大な化け物だ、どうやって倒したらいいかわからない、弱点はないのか……、近付いて行ったら化け物に捕らえられて痛めつけられている人間がいた、化け物を倒したがその化け物は口を割らない、その時、もう死んだと思っていた人間が口を開いた、私は探索隊の上原です、私は助かりません、せめて自衛官として使命を果たさせてください・・・・
「蟲の王の弱点は心臓です・・・・」
ガクッ。上原、上原ァァ!!
ほら。しっかり感動的なシーンになる。大事なのは勢いと迫力である。
実際のところ、蟲の王は巨大な化け物なので弱点があるのならそれは確かに欲しい情報である。しかし出会ってみると「かたつむり」っぽい形をしていて、どこに心臓があるのかが分からない。ここでもうワンステップ、心臓のある場所の記してあるノートを見付けるというRPGっぽい展開を挟むのだが、一応こうやって”上原の犠牲は無駄にしないぞ”の形で話は進んで行く。やはりどうしても”作者のさじ加減でどうにでもなる感”が滲み出てしまうが、それすらも含めて楽しむのが「彼岸島」である。
しかしフレーズで考えると「弱点は心臓です」って本当にパワーワードだな……。