「師匠」
出典元、落語などで弟子が師匠を呼ぶときの尊称。お師匠さまなので。
弟子が師匠を呼ぶときに「師匠」と呼ぶのは至極真っ当な話である。落語界が「師匠」を使っているだけで、別の業界でも師弟関係なら「師匠」を使っているだろうし、似た呼び方で「親方」や「先生」なども使われているだろう。
問題なのは。
テレビなどで弟子でもない人が「師匠」と呼んでいるところである。お笑い芸人が落語家の人を呼ぶ際、わざわざ使っている印象を受ける。わざわざというか、そう呼ばないといけないから……? ここに生じる違和感はもちろん、「あんたその人の弟子じゃないじゃん」である。まあそれは「正確には弟子ではないけど尊敬の念を込めて」使っているだけなのだろうが、そこに違和感が残らないかと言われれば残る。……だけでなく、皮肉を込めて言っているのか? と感じるシチュエーションがあってしまうので、そこが難点である。どういう事かと言うと……。
テレビは「面白ければ正義」というところもあるのである。只今ブレイク中、というお笑い芸人がいたとする。ネタが面白く、フリートークも上手い。ドカンドカン笑いを取る。一時的なものかもしれないが、とにかく今現在はブイブイ言わせている渦中の人だ。その芸人が、
「師匠!」
と落語家に対して呼び掛けるのである。いや別にそこになんの問題もない、の、だが。落語家もなぜか無条件で偉い位置に立っている人もいるのである。落語の世界でそれなりの立場にあるのはいい。しかし「芸人」としてテレビに出ているのに、ちょっとコメントを求められると「知識人」的な立場からコメントをする。テレビ馴れしていないので、笑いは取れない事が多い。番組中、一度も笑いを取れなかったりする。そしてそこにブレイク中の芸人が絡んで来て、逆にこちらはなにを言っても笑いを取って行く。フィーバー中なのである。
「師匠!」
どこが「師匠」なの、と。
あなたも芸人なんでしょう、と。それは「高座じゃないから……」と言いたいかもしれないが、コントを得意とするお笑い芸人が頑張ってフリートークで笑わせるのが今のバラエティ番組である。そこに出ている以上、偉そうにして周りから「あの人は偉い人だからいいの」と言われているのではなく、しっかりと笑いを取る事が芸人のあるべき姿なのではないか。ビートたけしだって毎回笑いを取りに行っているのである。少なくとも日本中にたくさんいて、テレビに出たからには絶対チャンスをものにしてやる、と思っている若手芸人は、そうしている。なんなのその位置?
「師匠」と呼ばれる以上、尊敬される事はして欲しい。視聴者は出演者同士が立場で気を遣うところなど、見たくないのである。面白いのが正義なのである。「師匠」が本当に高度な技を持つ師匠なら、「ここは専門じゃないから」みたいな言い訳をせず、ちゃんと笑いを取って欲しい。「どこが師匠なの?」という違和感を、視聴者からなくしてくれるように。