「ノマドワーカー」
出典元、近年生まれた「ノマドワーク」という働き方をする人たちの通称。意識の高い働き方。
「ノマド」(の-まど)とは、「野」(野原)に「窓」(Windows)を持ち出して、屋外でパソコンを使うという意味の言葉だったら面白かったのだがそうではなく、英語で「遊牧民」を意味する言葉である。遊牧民の様に場所を固定せず仕事する働き方を「ノマドワーク」、その働き方をする人たちを「ノマドワーカー」と呼ぶ。彼らは「窓」(Windows)を持ち出すというよりはむしろリンゴ(Macintosh)を持ち出す事に執念を燃やしており、外に出てスターバックス的なおしゃれな店で「MacBook Air」を開き、その自分の仕事スタイルに酔いしれながら作業をしている。スタバはもちろんドトールでもタリーズでもいいのだが、ルノアールまで行くと空気と値段が変わるためもう一段敷居が高いらしい。
もちろんこの働き方は、出社してモノを作るとか、店頭に出て接客をするといった業種では不可能な働き方であり、自身とパソコンだけで業務が完結する、特定の業種に限った特殊なものである。しかしその特定の業種とやらが、ライターだったりプログラマーだったり、デザイナーだったりと頭の良さやセンスの良さを活かす業種が多いため、鼻につくという意味で直接的に迷惑を被らない人からも多少煙たがられている存在である。
直接的に迷惑を被らない人からも煙たがられているというのは、直接的に迷惑を被る人もいるという意味である。「ノマドワーカー」はノートパソコンとネット回線があれば仕事が出来るとはいえ、公園でも草原でもいいという訳ではない。つまりネット回線と、出来れば電源のある喫茶店や図書館、ファミレスやネットカフェで作業するのである。まあネットカフェは自由にすればいいが、喫茶店でじゃあ8時間居座りますねと言われたら店側としても眉をひそめるだろう。それを気にしない店もあるが、気にする店も多い。では何時間ぐらいが目安なのか、といったものがモラルに委ねられているところがあり、店側と「ノマドワーカー」の意識が乖離していると、それはただの迷惑な客と化すのである。2時間越えたら追加注文してください、じゃあコーヒー4杯で8時間居座りますね。それがOKの店とNGの店があり、さらに店のルールとしてはあいまいで店員だけがイライラするケースもある。どれにせよ、やっている事がルールの隙を突く様な行為のため、存在自体が煙たい。
喫茶店を使う「ノマドワーカー」には面倒臭い問題があって、その一つが「トイレ行く時、荷物どうしよう問題」である。なんやねん、という話だが、同じ店に3時間も4時間もいるとトイレにも行きたくなる。なにせ飲んでいるのは利尿作用の高いコーヒーである。しかしでは離席するとして、「ノマドワーカー」は机に荷物を広げているのである。ノートパソコン、ケータイ、ノートや筆記用具が出ている場合も多いだろう。そして当然、かばん。ケータイは持って行くとしても、それ以外をそのままにしてトイレに行って、大丈夫か? ……いや大丈夫だろうけど! 万が一これらが盗られたら大変な事になる。でもなぁー……、これ全部カバンに戻して、トイレから戻ったらまた広げるのぉ? ……という問題である。勝手にしろよという話だがっ。
そして近年、そういった面倒な存在を一手に引き受けるべく、「仕事するための部屋」サービスが多数始まっている。喫茶店風でありながらコーヒー料金ではなく利用時間と席にお金を払うそのサービスは、「コワーキングスペース」と呼ばれるもので、いきつけの喫茶店に顔を覚えられた「ノマドワーカー」の最後の砦となっている。「コワーキング」とは、「個」人がバラバラに「働く」(ワーキング)という意味の和製英語だったら面白かったのだがそうではなく、英語で「同じ組織に所属するのではない人々が共同スペースで働く事」を「コワーキング」(Coworking)と言う。最近生まれた完全にそれ専門の用語であり、つまりアメリカこそ「ノマドワーカー」の本拠地という訳である。
「ノマドワーカー」は、おそらく小説家でも可能な働き方だと思うのだが、小説家でそれをやっている感じがしないのは、ネットを使うイメージがないからだろう。ちょっとした調べ物ならともかく、小説の物語は基本的に頭の中からひねり出すため、原稿用紙とペンさえあれば書ける。小説家の先生にはノマドワークではなく、旅館に篭もって浴衣を着て執筆していて欲しい。旅館に連泊って事はめちゃめちゃ金使ってるなあ、コーヒー一杯とは大違いだ。