「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」
出典元、吾峠呼世晴の漫画「鬼滅の刃」24話より。主人公、竈門炭治郎(かまど たんじろう)の心のセリフ。
「鬼滅の刃」。現在漫画業界において、一大ムーブメントを巻き起こしている作品である。週刊少年ジャンプで連載されており、2019年にアニメ化され、それに伴い人気が爆発した。コミックスは売上ランキングを独占し、ジャンプが発売されれば感想が都度トレンドワードとなってSNSを騒がせる。アニメは一期が終わり、続きの映画が予告されているが、まず間違いなくそれ以降も作られるだろう。ちなみに原作を読んでいてアニメを見ていない人が知ったら「え、アニメここまでしかやってないのにこの盛り上がりようなの?」と驚く事必至である。まだ最初のちょっとしかアニメになっていない。
さて、しかしこれだけヒットしている「鬼滅の刃」も連載当初から大人気だった訳ではなかった。主人公が鬼を倒すストーリーなのだが、イントロダクションが終わって話が動き出すところでいきなり修行編に突入してしまい、いまいち人気の出ない時期が続いたのである。また、敵である鬼の能力が、序盤に登場するにしてはクセの強い空間操作系が多く、戦闘が分かりにくい部分がなくもなかった。こういうのはなかなか漫画での表現が難しい。逆にアニメだとめっちゃ映えるという超展開に繋がる訳だが……。しかし、とある戦いで使われた炭治郎のモノローグに読者が「あっ」となり、結果的に起爆剤となった。それがこのセリフである。
「俺はもうほんとにずっと我慢してた!!」
「すごい痛いのを我慢してた!!」
「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」
ちょ、長男だから……次男……
そ の 発 想 は な か っ た。
ほんとになかった。現代において「お前は長男なんだから」と言われるシーンも少なくなったと思うが、そうか時代は大正時代である。長男としての責任、大正だとその発想があったか……。という、広範囲の読者のツボを突く謎の面白さで、「鬼滅の刃」はなんかもうとても話題になる。そして炭治郎のあだ名は瞬く間に「長男」になった。鬼滅スレではない漫画全般を語り合うスレなどでも「長男」と言うだけで炭治郎の事だと伝わるほど浸透してしまうほど、このひと言には威力があった。そしてこの辺りから「鬼滅の刃」の人気はジワジワと上がって行き、”ピカピカ”と表現される人気っぷりとなってアニメ化へと続いて行くのである。ほんと長男で良かった。
ただ、炭治郎のあだ名「長男」が浸透して以降、「鬼滅の刃」読者の中で「さすが長男」という受け止め方が誕生してしまった。そしてこれには対義語も付属してしまう。つまり「次男だから駄目だった」。……次男なだけで? その理屈はおかしいが、どういう事かと言うと、作中に登場する次男のキャラ、不死川玄弥(しなずがわ げんや)、時透無一郎(ときとう むいちろう)などが、読者から「次男だから駄目だった」などと揶揄されてしまうのである。酷い話だ。……まあ冗談で済む話だが。
しかし冗談で済まないのはここからで、「長男」には実は深い意味がなくもない。主人公、竈門炭治郎の竈門家は代々「ヒノカミ神楽」という神事の舞いを継承しており、これが実は作中で最強とされる「日の呼吸」だと判明してくる。これがゆくゆくは鬼の始祖、鬼舞辻無惨(きぶつじ むざん)を倒す決定打になるのではという話になっており、つまり炭治郎がもし次男だったらヒノカミ神楽を継承していなかった事を考えると実際問題、
”俺は長男だから使えたけど次男だったら使えなかった”
という事になったのではないか。おお……。炭治郎が長男だった事は、作品世界の命運を左右する重要な要素だったじゃないか。
本ページの情報は2022年12月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。