「鈴を付ける」
出典元、古来からあることわざ。正確には「猫の首に鈴を付ける」。
厳密な元ネタとしては、イソップ物語から来ているらしい。ネズミたちが恐ろしいネコの対策を話し合っていて、そうだネコの首に鈴を付ければ近付いて来た時に音で分かる、とひらめいたものの、その鈴を付けるのをどのネズミもやらなかった、という寓話らしい。ネズミが話し合っているのでもちろん実話ではない。そこでどういう教訓が得られるかというと特になく、いなくなって欲しくてもいなくなってくれないもの、直って欲しくても直ってくれないもの、つまり”手に負えないもの”への苦肉の策として使われる表現となった。
ネズミでもネコでもそんな可愛いものなら現代科学をもってすればどうにでもなるが、どうにでもならないのがニンゲンである。ここで分かりやすい例を出すと会社におけるやっかいな社長だろうか。突然現れては順調に行っている仕事にあちこち文句を言い出し、勝手にやり方を変えて現場に混乱をもたらす。社員は堪ったものではないが、しかし当然ながら社長の命令ならば従わざるを得ない。そしてその後、社長がパッと思い付いただけの効率の悪い方法で仕事をするハメになり、業務は滞り、業績にも響くのである。しかし社長はその時言った事など翌日にはサッパリ忘れているので、次に来た時にまたその方法に文句を言って来たりする。理不尽な話だが、よくある話でもある。現代のネコであり、どうにもならない。
どうにもならないならばどうにもならないなりの対策というものがあり、それが「鈴を付ける」という方法である。結局のところ突然現れるのが不意打ちとなっている訳で、「社長が10分後に来るぞー!」と鈴の音がしてくれるのなら、対策出来る状況もある。すなわち、見たら社長が指摘して来そうな画面を表示させておかない。すなわち、社長が文句を言いそうな社員間のやりとりを社長がいる時だけでもやめておく。すなわち、社長が来た瞬間、”ちょうどいいところに!”とばかりに社長の食い付きそうな関係ない話題を誰かが振ってしまう。
「鈴を付ける」手段については、社長の携帯や車にGPSでも付けて感知出来る様にしておけばいいのだが、当然上の者にそんな事は出来ない。ならばどうするかというと、やれる範囲で努力するだけである。帰社した社長の車が駐車場に入ったのを誰かが監視しているとか、スケジュールをチェックして帰社の時間を計算しておくとか、玄関に近い人からの連絡網を徹底しておく、とかだろうか。酷い話だがそういう扱いをされている社長がいるのも確かで、今回の例えでは社長だが、会長や監査役などでもとにかく悪い意味でうるさい人というのは居るだろう。権限を持っているところがたちが悪い。言う事を聞く部下は、上の者のストレス解消のおもちゃではないのである。そんな迷惑な存在への対策が、
「鈴を付ける」
という事になるのだろう。