「え、別に今の漫画を普通に進めていくだけです」
出典元、テレビ番組「週刊少年「」(しゅうかんしょうねんかぎかっこ)」より。漫画家、荒木飛呂彦のセリフ。
変わった名前の番組だが、「週刊少年「」」は司会進行の船越英一郎が、主に漫画家の仕事場を訪ね、色々な質問に答えてもらうという番組である。そもそも表に出て来にくい漫画家という職業に加え、テレビなので仕事場の様子やアシスタント、場合によっては実際に描いているところも見せてもらえるという、当時なかなか珍しい番組だった。2003年放送、全10回。まあ受けてくれる漫画家もいくらでもいる訳ではないだろうし、延々と続けられるものでもないだろう。成功者以外にはあまり聞けないという部分もある。
第1回はテレビなのに創刊号という事で「週刊少年「荒木飛呂彦」」、「ジョジョの奇妙な冒険」の作者である。2003年というと相当な昔だが、ジョジョ第6部「ストーンオーシャン」の最終話を描いている最中での訪問だった。荒木飛呂彦の仕事場が見られる、インタビューが聞ける、だけでなく、もしかしたら第7部の話も聞けるのではないか、と当時かなり注目を集めたらしい。実際、船越英一郎の話術と荒木飛呂彦のサービス精神で、まだ編集者にも話していない第7部の名称が「スティール・ボール・ラン」である事が聞けてしまった。とりあえず第7部はある、その事実だけでホッとしたファンも多かっただろう。
船越英一郎の漫画知識もすごいもので、ちょうど荒木飛呂彦と同い年だった事もあって、好きな映画や好きな洋楽、洋画、ひと昔前の漫画知識にぐいぐい食い付いていく進行は見事としか言えなかった。荒木飛呂彦を取材する以上は荒木作品は読んでいるだろうな、どころではない漫画好きの幅広い知識で、見ている人も舌を巻いただろう。
そして今回のセリフである。この番組は漫画家への「100の質問」というものを用意していて、20問づつぐらいざっと聞いてから、興味深かった回答にはあとからまた詳しく話を聞いていく、という進行を主軸としていた。荒木飛呂彦ファンならどの回答も興味深いものだったろうが、地味ながらも実に熱い回答がこれだったと、個人的には思う。その質問はQ93だった。船越は質問する。「漫画家として今後、挑戦してみたいジャンルはどんなものですか?」。荒木飛呂彦の回答はこれである。
「え、別に今の漫画を普通に進めていくだけです」
さらっと過ぎ去った回答だったが、これを聞いて嬉しさが込み上げてきた視聴者はかなりいただろう。あえて言い換えてしまえば、この回答は「新たなジャンルとか興味ないしジョジョの続きを描き続けるだけですよ」なのだから。だから「スティール・ボール・ラン」もジョジョ第7部なのだろうし、その後もジョジョを描き続けていく事を当然の様に考えている、考えていてくれる。ジョジョファンにとってこんなに嬉しい事は無いだろう。いい意味で、荒木飛呂彦ファンは荒木飛呂彦の漫画なら何でも読みたいのではなく、ジョジョが読みたいのだから。
「スティール・ボール・ラン」は実際のところ、序盤はジョジョ第7部を名乗らずにスタートした。なんとなく登場人物の名前が過去にジョジョに登場した名前に近く、きな臭い感じはしていたがタイトルには「ジョジョの奇妙な冒険」が付かなかったし時代が過去に戻っているのでパラレルワールド感はあるがファンサービスなだけで別作品なのかも、とイマイチ判然としなかった。しかしひと区切り付いたところで掲載誌を「月刊ウルトラジャンプ」に移籍し、正式に「ジョジョの奇妙な冒険 Part7」、つまり第7部を名乗った。そう、やはりジョジョだったのだ。
さて、この番組が2003年放送という事で、16年後の現在は過去として振り返る事が出来る。ジョジョ第7部「スティール・ボール・ラン」も終了し、現在は第8部「ジョジョリオン」が連載中である。第7部序盤のきな臭さにさらに輪を掛けたきな臭さを放つ「ジョジョリオン」だが、第7部「スティール・ボール・ラン」は第6部「ストーンオーシャン」のラストで世界が一巡した世界であり、第8部「ジョジョリオン」は第7部「スティール・ボール・ラン」に続く話である事が公式に判明している。つまり世界の一巡も含め、ジョジョは最初から全て続いているのである。今回のセリフの事もあり、荒木飛呂彦が漫画を描き続ける限り、それはジョジョなのだろう。
何度も言うが、ファンにとってこんなに嬉しい事はない。