広島風お好み焼きのことを「広島焼き」というと微妙な雰囲気になり「広島焼きなんてものはない」という類の返しをされますので絶対におやめください。
出典元、広島のどこかのライブハウスの、「MCにおける注意事項」の貼り紙より。
奥が深い様でそれほどでもない、しかし重要な、時によっては致命的な事態に繋がる、重い注意事項である。これは、広島で「お好み焼き」と言えば、広島風のあの焼きそばが入って卵ではさむ、「広島風お好み焼き」と決まっているからである。決まっている以上、広島でわざわざ「広島風お好み焼き」などと言う必要もなく、「お好み焼き」で話が通じる。逆に広島で、焼きそばの入っていないお好み焼きを頼む場合は、「関西風お好み焼き」と注文する事になる。そしてこの法則が、大阪だとひっくり返る。地域による常識の違いである。
もともとどちらもなかった関東圏の人々にとっては、先に入って来たと思われる「関西風お好み焼き」が”普通の”お好み焼きだと思っている人が多いだろう。なので、単に「お好み焼き」と言った場合は「関西風お好み焼き」を指しているし、あの焼きそばの入ったお好み焼きの事は、「広島風お好み焼き」という事になる。ここまではいい。
問題は「広島風お好み焼き」を「広島焼き」と言ってしまった場合である。深読みと言えば深読みだが、ニュアンスとして、”お好み焼きと言えば「関西風お好み焼き」なんだから広島のアレはお好み焼きではない「広島焼き」という別物だろう”という意味に捉えられてしまう。そりゃあ、「広島風お好み焼きはお好み焼きではない」と言われたら広島人は怒るだろう。しかし事実として、「広島焼き」という表記は日本各地で見掛ける。いや、違う。広島以外の日本各地で見掛ける。
実際に「広島焼き」と聞いた広島県民がどのくらいプンスカするのかは、その人によるだろうし状況にもよるだろう。しかしライブ会場で、そのバンドのファンが集まっているであろうにも関わらずこの様な注意書きが書かれるほど、この問題はデリケートなのだ。県外から遠征して広島ライブを行ったバンドが、MC中にその土地を褒めるつもりで「やっぱ本場の広島焼きウマイっすねー」とか言ってしまうシーンは容易に想像出来る。確かにこの貼り紙は必要なのだ。重要な注意事項である。
注意書きの最後にはこうある。
広島人の小さなプライドですが絶対的なアイデンティティなのです。よろしくお願いいたします。
……重い。