「いつも綺麗に使ってくださりありがとうございます」
出典元、公共トイレによく掲示されている文言。お願いの仕方が最近になって進化した。
公共のトイレは汚れるものである。まず「自分ちじゃないし」というのが一番大きいと思うが、どう考えても自分ちより雑に使わないとここまで汚れないだろう、というぐらい汚れている。もちろんいろいろな人が使うので、10人使ったうちの一人がめちゃくちゃ汚く使った可能性もあるが、そうとも言い切れないぐらいの汚さが特に公園のトイレなどでは見て取れる。トイレでなければ公共の場所でのやらかし抑止力として監視カメラが使えるのだが、トイレだけにはそれが使えないのが悲しいところである。ああいうところのトイレが洋式にならなかったり、ウォシュレットが付かなかったりするのは、どうせロクな事にならないのを予見しての事だろう。悲しい事実である。
しかし逆に綺麗なところのトイレは本当に綺麗である。ディズニーランドが始めたという話もあるが、とにかく徹底的に掃除を行き届かせて常に綺麗な状態を保っているトイレというものはある。デパート、大型商店、そしてテーマパークなどはトイレ掃除が徹底されている。もちろん業者を入れているところもあるが、掃除のチェック表があるところなどを見るに、店員が当番制で短時間に回しているのだろう。大変な事とは思うが、客としては緊急時に非常に助かるし、汚いトイレというものは限度を超えると使用も不可能になるので現在の風潮は非常にありがたいものである。日本のトイレは綺麗だと外国人観光客から言われるらしいが、そりゃそうである。これだけ努力しているのだから。
その、努力の外側、客側に委ねるところにあるにも関わらず、最近ひねりを利かせることにより高い威力を発揮して来たのが、今回のフレーズである。
「いつも綺麗に使ってくださりありがとうございます」
昔はこうではなかった。
「トイレは綺麗に使ってください」とかだった。これをそれにすると飛躍的に効果が上がるなど、思いもしなかった。しかし効果があったのだろう。いろいろな場所で、「綺麗に使ってください」から「綺麗に使ってくれてありがとう」に表現が変わって来ている。面白いものである。汚す様な雑な使い方をする人がいて、その人は使う前にこの文言を読むのである。するとごく自然に良心に訴えかけ、「綺麗に使ってください」より高威力で効果を発揮する。こんなものは誰かが考え付くものでは無い。おそらくは、どこかが試しにそう書いてみたところ、効果が抜群だったので広め、あちこちで使われる様になったのだろう。大学の偉い人が考えたとはとても思えないし、頭が良ければ考え付くなら50年前に考え付けよ、と思うぐらい画期的な方法である。
実際は良心に働きかけているのかは分からない。反発する気持ちを抑えているのかもしれないし、自分は違う、と思わせる効果なのかもしれない。しかし日々、トイレ掃除をしている人にとってこの文言は発明に近いものだっただろう。客でも分かるのだ。掃除している側が、この貼り紙をしてから酷く汚れる事がなくなったな、と思った事は間違いない。ちょっとしたニュアンスの違いだが、ここまで結果が変わって来ると、人を操作する魔法の一つではないかとも、思えてしまうのである。
本ページの情報は2023年3月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。