「その程度で付け焼き刃の武器を身につけるほど俺のシュートは安くない……!!」
出典元、藤巻忠俊の漫画「黒子のバスケ」より。緑間真太郎(みどりま しんたろう)のセリフ。
「黒子のバスケ」、ジャンプで大変な人気を誇ったバスケ漫画である。なぜか腐女子向けに思われているところもある作品だが、ファンの比重が女性に寄っていただけで、普通に少年漫画として熱く面白い。登場人物も男キャラだらけだが、男子運動部の話なのでそれは至って普通の事だろう。なお、作中でBLを臭わせる表現は一切ない。
ジャンプではスポーツものはなかなか受けにくい傾向がある。明確な理由は定かではないが、パワーインフレが起こった時の面白さを、ルールという縛りのあるスポーツで魅せる事に一定の限界があるからかもしれない。例えばゴルフならどんな技を持っていたとしてもスコアの上限があり、表現の幅が狭い。その辺りの難しさは「ロボ×レーザービーム」という作品があるのでそちらを参考に。
しかし「黒子のバスケ」は大ヒットした漫画である。この作品の特徴の一つに、「かつて存在した最強のチーム」の存在がある。中学時代に三連覇を成し遂げた帝光中学の「キセキの世代」と呼ばれる最強の5人がいて、そこに知られていないが「幻の6人目」がいたらしい……。それが主人公の黒子テツヤ(くろこ てつや)で、高校に入って新たなパートナーとなった火神大我(かがみ たいが)と共に「キセキの世代」の5人に挑んで行く。5人しかいない最強選手と、それらと順に戦って行き次第に明かされていく彼らの人物像と能力、この構成が非常に上手い。能力?
そう、スポーツ漫画と言っても能力バトル的になってしまうのがジャンプ漫画の常である。しかしそこがさじ加減の妙で、あまりにも非現実的な技を出すとその物語はあっという間に”そっち系”になってしまう。現実離れし過ぎず、しかし圧倒的な強さを感じさせる、バスケットボールの技。難しいが、まあ、考え付かない事は、ないか。「キセキの世代」の一人、緑間の技が「超長距離3Pシュート」(スーパーロングレンジスリーポイント)で、”コートのどこからでも決められる3Pシュート”である。……。真っ先に思い付くがそれ出しちゃったかぁ的なやつ。コートの真ん中どころか、自陣ゴール下からでも決められる反則中の反則シュート。いや思い付くよ? 思い付くけども……。余りにも非現実? いやギリギリなくは……ないのだよ。なくはないけども!
ストーリーの流れで、黒子の所属する誠凛高校は「キセキの世代」が所属するチームとたびたび戦う事になる。主人公チームというのと「キセキの世代」クラスが二人いるという部分もあり、誠凛は彼らに打ち勝ったりもするのだが、そこは熱血バトル漫画、相手も特訓してパワーアップするのである。毎度新たな力を手にして立ち塞がる強敵、しかし緑間だけは結局、この3Pシュートだけだった。一度勝って再び対峙した際、何か新たな技を身に付けたかと緊張の走る面々に、緑間は言うのである。
「その程度で付け焼き刃の武器を身につけるほど俺のシュートは安くない……!!」
そう、元からその技は反則的だし、それを自覚しているのもまたいい。