「他人に強要するな」
出典元、不詳。しかしよく使われる言葉だろう。
上司や部下、教師や学生といった上下関係が明白なものに関しては命令、指示といった意味で問題がない発言とも言える。……いや違うな。命令系統が正しくてもこの言葉を使うのはおかしい。言われて仕方ないとかそういう事ではなく、この言葉に問題があるのである。
つまり、「他人に強要するな」と言った時点で他人に強要している。言った瞬間にその言葉が矛盾しているというおかしな事になる。他人に強要するなと強要しているのはお前だろう、と。しかし案外、こういう言葉は日常で使われているものである。興味のある授業、重要な会議など、発言している人物の言葉を一言一句違えず理解するぞ、と集中して話を聞いている時にこういう言葉が発せられると、「ん!?」と違和感に襲われる。つっこんだ方がいいならつっこむべきだろうが、状況にもよるだろう。しかして、矛盾した言葉を起点として話が膨らんでしまった場合にはつっこみ、もとい、指摘しなければならない。誰か指摘しろよ、という空気の充満してしまった会議などに遭遇した事のある人もいるだろう。間違った事を前提に進んでしまう話は、ただただ時間の無駄である。
こういう、自己矛盾を含む言葉は悪い意味に取れば問題になるが、存在自体が面白くもある。ちょっと見かけたら写真に撮ってSNSに上げてみんなで笑う、みたいな流れもなくはない。ラーメン屋なのにそば屋みたいな名前の店があったり、右折のみの標識なのに右が壁だったり、昨今では面白ネタの一つである。これをさらに広げて用語集を作ったり、もしくは小説などの創作でそういう事を言う人物を登場させたら面白いだろう。うーん、例えば、普段は真面目な人なのに、何か感極まった時に、こういうひと言で矛盾するセリフをたびたび言う人物とか。出来たら面白いが、まずは集めなければならない。
とはいえ昨今、ネットで探せば色々見付かったり、掲示板などで意見を募ればあれはあれで高度な書き込みが多く寄せられるものである。2ちゃんねるなど、便所の落書きなどと言われていた頃もあるが、別にピックアップなどしなくても、気の利いた話を持ってくる人もいれば気の利いた返しをする人もたくさんいるのである。利用者の年齢層が上がったと言われるが、知的レベルも上がっているのだろう。それに掲示板は2ちゃんねるだけではない。
できるだけ短い言葉で矛盾する、これだけでも面白いのだが、聞いた瞬間に分かるというよりも、一瞬間を置いて気付かれるぐらいがいい味を出しているだろう。言葉というものは人に感銘を与える、感動させる、奮起させる、色々効力はあるが、フッと鼻から息を漏らす程度に笑わせる、ちょっとした違和感だけ残し少しの間その人の思考をぐるぐるする、など、使いこなせたら面白いものである。コピーライターなどはそういうもののプロなのだろうが、まだ開けていない扉があるはずである。まだまだ、あるはずだと思っているし、それを使いこなせたらその言葉は魔力を発すると言ってもいいだろう、と、思う。