「さっきのお客さんさー」
出典元、不詳。世の中にあるいろいろなお店の、店員がたまに発するセリフ。
接客業のルールというものはたくさんあるが、店側はあまり重きを置いていないにも関わらず、客側をいたずらに刺激する言葉というものがある。その一つがこれである。いわゆる、”客が帰ったあと、その客の話題を他の客が聞こえるところでする”という行為である。これは悪口に限らない。接客業もストレスの溜まる職業である。困った客がいて、対処の済んだあとにストックルームなどで店員同士、その人を話題にするのは構わないだろう。しかしこれを他の客に聞こえるところでやってしまうのはいただけない。教育の問題である。
例えば飲食店で、店員同士が「さっきのお客さん、食べ方すごかったよね~」なんて話していたら他の客はどう思うだろうか。自分は問題ないとしてもである。問題ないとしても見られていると思って少し食べ方を気にしてしまうし、「あ、自分も帰ったあとああやってネタにされるのかな」と思ってしまうのである。その時点で嫌な気持ちになるし、店側にとっては完全に悪手である。そして上にも書いたがこれは悪口に限らない、そこがまた油断してしまう部分である。「あのお客さん、良く来てくれるよね~」、「あのお客さん、いつも同じメニュー頼んでくれるよね~」。これらは一応悪口ではない。しかし聞こえてしまった別の客にとっては、やはり「自分の行動もなんか言われてんのかな……」と思ってしまう、悪い意味での呪文である。
こういうルールというかマナーは、普通なら店長などが管理し、アルバイトの教育の時点で注意事項として挙げておくものである。しかし時にはすごい客もいたりするので、例えばピンクや緑の髪の客が来たとしたら帰ったあと思わず話題にしてしまうだろう。「さっきのお客さん、髪すごかったね」と。では、紫なら? 紫は意外とシルバー世代のご婦人で見掛ける色である。「髪ボサボサだったね」だったらそれこそ今いる客全員が自分の髪が大丈夫かを気にしてしまうだろう。つまり、褒めようがけなそうが、帰ったあとだろうが、ダメなのである。他に客がいる時に別の客の噂話をしてはいけないのである。たぶんチェーン店のマニュアルには書いてある。が……、
店員の教育というものは店長や上の者の役割なので、上の者がそれをやってしまったら店丸ごとマナー違反状態になるのである。「この店酷いな……」と思う店に遭遇した事のある人も多いだろう。男性店員が女性アルバイトを口説くかの様な雑談をしながら、客から呼ばれたらハイハイと元気よく接客、といった店などもある。酷いところは本当に酷いものである。いわゆる「バイトリーダー」問題の一つかもしれないが、人間関係の中で自分が上に立ってしまい、叱る立場の者がいなくなると緩んでしまう人は要るのである。客としてはイライラするがどうしようもない。そこで直接苦情を入れるのも同じ側になる気がするし、どうせあとから話の種にされてしまうだろう。これはもう反面教師として覚えておき、自分がそうなった時にそうしない、そう教訓とするしか手がない。困ったものである。
そしてたまに、チェーン店丸ごとマナーのなっていない店などもありビックリする。この系列は全店教育がなっていないのか、と思い愕然とするのである。まあ、……それはさすがに匿名で苦情を入れた方がいいが。