「こっちなんか鉄板だぞ」
出典元、不詳。バイトの内容がどうとか言っている高校生同士の会話より。
「鉄板」という言葉はたまに、「イタリアンならあの店が鉄板だよね」みたいに使われるが、今回のはその意味ではない。そのまま鉄の板である「鉄板」の事である。
会話内容は、別のバイトをしているもう一人の友だちの「紙が重い」という言葉が発端だ。紙って重いものなんだね、ダンボールにずっしり紙が入っていたらすごく重いし、ダンボール自体も紙なのに重い、あんなに重いなんて知らなかった。それに対する返答が「こっちなんか鉄板だぞ」である。こっちは鉄板を運んだりするバイトだぞ、と。
ここに、不思議な基準が発生する。紙と鉄板とでどちらが重いか? そんなの鉄板に決まっている。「こっちなんか鉄板だぞ」と返すのは普通のリアクションだろう。しかし「紙が重い」と主張した彼が、にわかに納得出来なかったのも確かである。ダンボールがかさばると、一つの大きなダンボール箱を入れ物にして、その中に折り畳んだダンボールを差していくことになる。そしてギュウギュウに詰めたダンボールを、ゴミ捨て場というかダンボール置き場へ運ぶのである。その場合、もはや大きいので一番下から持ち上げると視界も塞がるし扉の上部にも当たってしまう。なので、入れ物にしたダンボール箱の端を両手でつまんで持ち上げるのである。この場合、単に腕力というより握力も必要になる。ダンボール置き場が遠ければ途中で床に置き一時休憩も必要だろう。つまり握力の限界まで使う作業である。これの感想が「紙が重い」。
では鉄板はつまみ上げるものだろうか。例えば20kgの鉄板なんかあったら、それこそ下から持ったとしても全力全開のパワーを使って10メートルも運べば限界だろう。つまみ上げるなんて出来る訳がない。そして鉄板なんだから持ちやすい形になっているとも思えないし、男子高校生の体力でも一日中ばんばか運べるものでもないだろう。おそらくは、ちょっと運ぶだけでも人の力ではなく台車なりの道具を使うレベルだろう。
「こっちなんか鉄板だぞ」。え、紙で言うと鉄板が何枚も重なったものを脚立を使って高い位置に手で持ち上げて置いたり、トラックが入荷してきた鉄板を人力で、運ちゃんを待たせない様にさっさか何往復も倉庫内に運んだりするの? ……そんな事、ないだろう。台車とかフォークリフトを使うだろう。認識の相違である。お互い「こっちの方が大変なんだぞ」と言いたいだろうが、具体的な作業風景を見ていないのなら決めつけていいものでもないだろう。これは紙側の「鉄板ならなんか道具使ってやってるんだろう」という認識についても同様で、本当に10kgぐらいの鉄板を作業しながらポンポンあっちへこっちへ運んでいるのかもしれない。本当にパワー系のバイトなのかもしれない。お互いを尊重し、下に見たりする事などないようにしたいものである。
鉄板は重い。しかし、紙も同じぐらい重い。銃はペンより強しみたいな認識の話ではなく、物理的な重さ対決の話でもなく、量と持ち方の問題だ。