「なんでテレビが2台あるの?」
出典元、不詳。どこかの家庭にお客さんが来た時の、お客さんのセリフ。
別にテレビが2台あったって3台あったっていいじゃないか。そういう家庭もあるだろう。……そういう意味ではない。厳密には、なんでテレビが2台、並んで置いてあるの? という意味でこのセリフは放たれている。並んでいるのである。子どものいる普通の4人家族ぐらいの家庭である。チャンネル争いが過激すぎてこんなことになったのか、親と子で別々の番組を見られるようにしてあるのだろうか。そうではない。だって、並んでるのだから。並んでたら音が混ざって番組はまともに見られない。片方は音声を消しても楽しめる番組? ……そうでも、ない。
これは、コンシューマーゲーム機におけるオンラインRPGの同時プレイ用の環境である。同じ世界に、夫は夫、妻は妻のキャラを作って別々に遊んでいる。しかしパーティを組んで同じ場所で同じ敵と戦う事も多い。その場合の利便性として、キーボードに文字を打つチャットよりも、ネットを介するボイスチャットよりも、頑張ってスカイプを用意するよりも、そんな事しなくても、直接話せばいいのである。その為の環境である。時差ゼロの最強の環境である。
しかしお客さんが来たらそりゃあ驚く。パソコンではたまにデュアルスクリーンをしている人を見かけるかもしれないが、テレビが2台並んでいる光景など謎すぎるだろう。片方が壊れているのかとも思うかもしれない。プレイしているところでも見なければ意味不明だろう。しかしこれは微笑ましい、夫婦共通の趣味、というやつである。お客さんも理由を聞けば納得するだろう。オンラインRPGというものが分かれば、だが。
ちなみにそれほど微笑ましくないパターンでもこの環境はある。それは一人複数アカウントプレイである。2台のテレビ、2台のゲーム機、そしてプレイヤーは一人。それこそテレビは近くなければ成り立たない。どうやるかと言えば、コントローラーを持ち替え持ち替え、ひたすら繰り返して2キャラを同時に操作するのである。しかし厳密には同時にはならない。が、熟練者ともなると片方のキャラに少し長くかかる魔法などを唱えさせて、その間にコントローラーを持ち替えてもう片方のキャラを動かし強敵を倒していく、などというプレイを楽々こなす。そのゲームにもよるが、1キャラでは倒せない敵で、通常なら他のプレイヤーを何人も集めないと倒せない、という敵がいる。しかし上手くやれば2キャラでなんとか倒せたりする。その場合、戦利品を大勢で取り合うこともなく独り占め、もとい二人占めが出来てしまう。それが美味しいからこその、一人複数アカウントプレイなのである。
人によっては2キャラどころか3キャラ4キャラ同時にプレイし、効率を突き詰めたプレイをしている。もはや達人の域である。その場合、お客さんが来た時の質問は「なんでテレビが4台あるの?」になるが、まあ基本的にはドン引きされるので、お客さんは呼ばない方がいい。