「オイヨイヨ」
出典元、スクウェア・エニックスのゲーム「ファイナルファンタジー12」より。主人公、ヴァンのセリフ。
正式には「飛び降りろ!」である。酷い話だが、声優の滑舌が悪く「オイヨイヨ!」に聞こえてしまうユーザーが続出、ヴァンとその声優、武田航平の代名詞にもなってしまった。本当に酷い話である。「FF12」にとっても酷い話だし、武田航平にとっても酷い話だし、ユーザーにとっても酷い話である。誰が悪いのかを語る。
無論、直接的には武田航平の滑舌が悪い事が悪い。それは厳然として事実としてある。声優として選ばれたのになんて演技だ。しかし、別に彼が家で録音してデータを送った訳ではないのである。アフレコスタジオで、たくさんの人がいる中収録し、音響監督がOKを出したからゲームに収められたセリフなのである。少なくとも音響監督にも責任はある。そして決めるのは音響監督であろうとも、ディレクターなり、意見を言える上の立場の人もいただろう。そこを「まあ……、いっか!」で通してしまった人もいたはずである。この辺りまでが一次的責任者。
次。これが一番分かりやすいところだが、武田航平はそもそも声優では無く俳優である。声優のアニメでの演技、声の出し方は現実のものとは違う。そしてゲームはアニメ側の声の出し方である。これは言ってしまえば”現実的でない極端な演技”という事になるが、しかしドラマはどうだろうか。あんな大げさな身振り手振り、演技、声の出し方をしている人も現実にはなかなかいないのである。どちらも現実的ではない。どちらがどうという事ではなく、アニメの演技でドラマに声を当てても浮いてしまうし、ドラマの演技でアニメ、今回の場合はゲームに声を当てても浮いてしまう。つまり武田航平に”声優としての”演技力が足りなかった、のが大きい。これは多くの人が認めるところだろう。
次。キャスティングした人。もうかなり長く言われている事だが、「アニメの声優に俳優を使うな!」問題である。テレビアニメでは少ないが劇場アニメではまだまだ多い。ジブリは未だに俳優ばかり使っている。「あれに味がある」という人もいて、完全否定するつもりはないが、あえて言ってしまえば、「あの演技で味が出た率」が20%、「あの演技で全部台無し率」が80%というところだろう。映画で言うと、当然キャスティングには興行を成功させたい偉い人の思惑が絡んで来るし、有名俳優を使う事による集客が見込めるので”集客してしまえば評価はどうでもいい、金はもらってるし”という判断もあるだろう。功罪ある問題と言えるが、いや、功罪罪罪罪ある、ぐらいが正しいだろうか。脚本を書き、絵を描き、監督が取りまとめ、100人以上の人が何百時間も費やして作っているアニメ映画などで、よし、これは行ける、名作だ、あとは声を入れるだけ、というところで素人演技で台無し、こんなのが良くある話なのが悲しい現実である。
もちろん、俳優の中にも声優も上手い人は多少いる。元々声優自体が舞台俳優の副業から始まったものだったので、あまり切り分けがなかった事情もある。しかし時代は変わり、モデル、タレント、そしてちょっと俳優をやって人気が出たからよし声優に起用、この流れで下手な演技をされる、このパターンが最悪である。そして今どき、養成所を出た声優は若くてもしっかりとした実力を身に付けている。アニメ好きが声優になりたくて競争の中勝ち抜いて来たのだから当然である。声優の演技というのは特殊技術なのである。それを分かっていないキャスティングの人、お金を出したから口を出せる偉い人、その人たちに責任はあるだろう。というか、観てないんじゃないか、と思うのだが。
最後に武田航平だが、「FF12」は酷かったがその後しっかりと声優としても成長し、その実力は周りからも評価されている。「FF12」は声優初挑戦だったらしい。無茶をさせるなよ、という話である。誰ならいい、誰ならダメ、という話ではなく、実力があればいい、実力がなければダメ、という単純な話である。武田航平は「オイヨイヨ」の人として有名になってしまうという悲劇の主人公になってしまったが、キャスティングする人には是非、作り込んだ作品の最後の最後で声を当てる人を、気楽に選んで欲しくないものである。
本ページの情報は2023年3月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。