「全然」
出典元、日本に古来からある表現。そして時代と共に使われ方に変化が生じて来た表現でもある。
いちいち目くじらを立てなくてもいいが、立てたくなる人もいるのである。
「全然いいよ」と聞いて、違和感を感じる人は多いだろう。「全然嬉しい」、「全然楽しい」、でも同じである。その正しい使い方は「全然よくないよ」、「全然嬉しくないよ」、「全然楽しくないよ」、ではなかったのか。つまり「never」である。意味、「決して~ない」、否定を表現するのを前提とした使われ方である。学校でもそう習う。しかし日常生活を送っていてもテレビを見ていても分かる通り、「全然~肯定」の使い方は既に市民権を得ていて十分通じており、せいぜいアナウンサーが使わない様に気を付けているぐらいだろうか。ま、言葉などというものは時代によって使われ方が変化していくものなので、意味が伝わればいいのである。時代と共に変化して行った言葉の一つであるというだけの事である。
が、変化というならば、使われ出した明治大正時代には、別に否定でなければいけなかった訳ではないという。そして昭和20年前後に、否定で使われる様に確定していったらしい。年が年だけに分かりやすいが西暦で言うと1945年近辺である。そして次の変化は2000年近辺、記憶に残ってる人も多いであろう、まあ最近である。芸能人だか、お笑い芸人だかが、”言葉遊び的に”使い出した印象がある。言葉遊びというのは、つまり、
”本来は「全然美味しくない」と言うだろうと思わせて「全然……」まで言ったところに、「美味しい」と繋げる事で聞く側の違和感と共に表現の不意打ちを食らわせ、クスリとした笑いを取る”
という事である。なにせ「否定」として使い続けられて55年である。「肯定」で使い始めた人は、一次的なひっかけ、ネタ、お笑いのつもりでちょっと使ってみただけなのではないか。しかしそれが妙に一般に浸透してしまって、「その使い方間違ってるよ」などと言われつつもそれを覆い尽くす勢いで広まってしまった。当然、「肯定」の使い方が間違っていると分かっている人もまだまだ多いが、ここまで広まってしまうと「現代用語の基礎知識」と化してしまう。デファクトスタンダード、事実上の標準として時代が認めてしまうのである。この変化が訪れた2000年近辺にはその様な変異があったのだと、……思う。
ちなみに文章としては「肯定」で使われる言葉がほぼなく、まだどちらかというと間違い扱いで、「肯定」で使われるのは話し言葉だけだ、という事からもその憶測が成り立つ。
……と、思う。