「声優の盾」
出典元、ネット各所。元となる表現の存在する用語だが、今回そちらには触れない。
以前からある用語なのかもしれないが、ここでは去年大きな騒ぎとなった「けものフレンズ」の際に使われた事例を紹介する。
「けものフレンズ」は2017年初頭、大人気アニメとしてブームを巻き起こした作品である。アニメ続編の制作も決定していて、キャラクターのブランド価値は跳ね上がり、動物を題材にした事もあり動物園の集客にも影響が出たほどの作品だった。しかし、功労者であるところのたつき監督が降板になるという情報がそのたつき監督本人のツイッターで発せられ、事態は混沌の様相を見せる。
半年以上に渡り「悪いのは誰か」がファンの間で取り沙汰されて、結果としてはあちらからもこちらからも公式発表などがされたが、結局のところ全貌は明らかにならなかった。そしてたつき監督及び、所属する会社のヤオヨロズが「けものフレンズ」の2期を制作出来ない事は確定してしまった。ファンの声の力及ばず、である。これによるファン離れも大量に起こるだろうし、何年かは使っていける金脈を掘り当てた状態だったのが、これはもう無理だろう。せいぜい銀脈といったところか。原因について情報を追うと、おそらく「あれ」か、「これ」、ぐらいまでは分かって来るのだが、どうしても「じゃあこの人が悪いのか」という事になってしまうため、なかなかそれも作品を応援してくれた人にとってはつらいものがある。
しかしそんな状態にも関わらずプロジェクトは動き続けていたりするのである。すなわち、どん兵衛コラボとか、ファミマコラボのじゃぱりまんなどである。そしてやはり直接的だったのが、騒動の最中に放送されたニコニコ生放送の「第13回けものフレンズアワー」だろう。ニコニコ生放送なのでなので生放送だし、リアルタイムでユーザーからのコメントが流れる。騒動のまっただ中である。放送を中止する手もあっただろうが、それはそれで「逃げた」とまたファンの不満も爆発するだろうし……、いろいろと思惑も錯綜したのだろう。放送は行われ、冒頭で諸般の騒動について、出演している声優が謝罪したのである。
声優は悪くない。
少なくとも今回の騒動において声優は絡んでいないので全く悪くない。しかし大人の対応で、こうなってしまったら謝らなければならないだろう。これはまあ仕方がない。しかしもちろん事情に深くも触れられないので、「それはそれとして」、楽しく番組は放送された。そしてみんなのコメントから溢れる「声優の盾」の声。悪くない人たちを矢面に立たせて、叩けないのを知った上で謝らせる。攻撃は絶対に出来ないと分かった上で、絶大な防御力を誇る盾である。そして高い防御力と当時に、本当に悪い人の猛烈な卑怯さも発散される。だからみんな怒るが、怒れず、怒りのはけ口を求めてまたファンは別の場所に向かうのである。
実際は仕方ないところである。騒動のまっただ中で生放送をしておいて全く触れないのも不自然すぎるし、ひと言だけ触れる、そして謝る、のは最低限必要な事だっただろう。そして必要以上に触れずに話を続ける事も、妥当な対応だっただろう。これしかない対応ではあった。しかしわだかまりは残り、結局この放送ではなにも判明せず、騒動は長らく続いてしまったのである。
責められるいわれのある声優が全くいない、しかし作品の関係者ではある。ファンは怒っている。声優が”騒動が起こってしまった事について”謝る。これが「声優の盾」である。いい意味では全くない。