「孤独のグルメみたいな漫画」
出典元、漫画を作る側の人と、読む側の人との両方で使われている表現より。ネガティブな意味合いは多少ある。
「グルメ漫画やたらと増えてない?」と言われ出してなかなか久しい。いわゆる料理漫画というカテゴライズなら、これまでもたくさんの漫画作品は登場していたが、その内容はうんちくを語りつつ料理をするものか、料理対決ものぐらいだった。しかしそこに新たなカテゴリーとして登場したのがこれである。
「孤独のグルメみたいな漫画」
原作・久住昌之、作画・谷口ジローの漫画「孤独のグルメ」に代表される、飲食店に行って出された料理をただ食べるだけという内容の漫画である。「孤独のグルメ」では自分で料理をしないし、うんちくも大して語らない。そもそも料理を深く語るほどの高級な店に行っていない。登場するのはいつもランチで利用する程度の店なのである。そこで出来る表現としては、料理の美味しさを絵で魅せる事、そして味のあるリアクションぐらいしかない。のだが……、その味のあるリアクション、ナレーション芸が思いがけず多くの人のツボを突いたのである。「孤独のグルメ」は知る人ぞ知る漫画として長期的に売れ続け、ドラマ化で火が点いてからは有名漫画の仲間入りとなった。
「孤独のグルメ」が売れていると聞いたら、漫画家や特に漫画編集者は気になるだろう。これまでになかったジャンルなのである。飲食店に行って食事をする形式なので、登場キャラが自分で料理を作らない。つまり作る知識が必要ないという事である。さらに実在のお店をモデルにすれば、行った事のある店を思い出してすぐにそれが描ける。そして一話完結型にすればストーリーがなくていい。ス ト ー リ ー が な く て い い。キャラを作って設定をちょっと味付けすれば出来上がりである。漫画のネタを考える漫画家と編集者のやり取りにおいて、
「ネタが浮かばないなら今流行りの孤独のグルメみたいな漫画描いてみたら?」
という会話が生まれた事は想像に難くない。そんな会話がなければこれだけ「孤独のグルメみたいな漫画」が増えた理由の説明が付かないのだから。もちろん多くのグルメ漫画が、「孤独のグルメ」のただの真似にならない様にアレンジを施していて、多種多様であり面白いものもたくさんある。似た構造をしているだけでパクリとまでは言えないし、面白ければそれでいい。……が、まあ、面白くなければ”明らかに「孤独のグルメ」を真似して作ったくせにつまらない”という、ちゃんと踏まれて蹴られた評価になるが。
「孤独のグルメ」の漫画としての造りは、それだけコロンブスの卵だったのだろう。美味しい料理を描きたければ出しているお店に行けばいいし、外食というのは基本的にどこに行っても美味しい。そして、出くわす機会の少ない高級料理より、日常的に出会う一般的なその辺の店の料理の方が”読者が共感しやすく興味を引きやすい”のである。漫画といういくらでも架空の話が作れる媒体において、ファンタジーではなく現実的な話がこれだけ面白いというのは驚きである。総括して”真実は小説より奇なり”と結論付けたいところだが、なんかちょっと違う気もしないでもない。