「つゆだく」
出典元、牛丼屋で使えるおまけサービスの一つ。「汁(しる)だく」とも。
聞いてそのまま、牛丼のつゆを多めにかけてくれる無料サービスである。つゆを多くかける事がどうしてそんなに人々のハートを掴んだのか分からないが、それが知られ始めてから「つゆだく」ブームが発生し、しばらく全ての牛丼屋チェーンが繁盛したぐらいの影響力があった。築地で使われていたのが知れ渡ったとか、テレビで華原朋美が言ったから、など諸説がある。しかしこれが10円や20円などの有料だった場合、おそらく流行らなかっただろう事を考えると、単にお得感がある無料サービスに客が食い付いたという話だろう。
初出や元祖の話をするとややこしくなるが、ざっくり言うと吉野家で始まり、松屋やすき家など各社も順次対応したサービスである。どこも無料。もちろんなか卯でもランプ亭でも可能。サンボは不可。どちらかと言うと定着しすぎてしまい、それを断ると売上に響くレベルになったために対応せざるを得なくなったのだと思われる。たまに勘違いする人がいて、定食のライスにつゆをかけてくれ、とか頼む人がいるがそれは受け付けてもらえない。あくまで牛丼用おまけサービスであり、0円のサイドメニューという訳ではない。
こういうキャッチーな名前のサービスが幅を利かせてしまうと、すぐひねった考えをしたがる輩(やから)が現れる。まっさきに頭ピコーンされたのは、まあ「つゆぬき」だろう。「ご飯につゆがいっぱいかかってるのが好きだ!」という意見を偏屈者にぶっかけると、「俺はつゆが少ない方が好きなんだ!」という脊髄反射が返ってくる。そしてまあ、別につゆを少なくするぐらい簡単だろ、と店員にゴネたのだろう、「つゆぬき」も一応やってもらえるサービスとして定着してしまった。そしてさらに「つゆだくだく」とか言い出して店員を困惑させ、しまいには「ねぎだく」などと具材にまで注文を付け始める始末。そこまでいくと作業手数にも提供時間にも影響が出てしまう。肉ひと切れと、あとは大量のたまねぎをくれてやれ。「ねぎぬき」を頼む客には「その先にマックがありますよ」でいい。
元々牛丼屋というのはサラリーマンが短い昼休みにかっ込んでいく的需要の多い飲食店だった。吉野家なんかは初めカウンターしかなかったし、ファミリーで行くところではなかった。そういった毎日牛丼を食べている人が、吉野家はメニューも少ないし、せめて可能な範囲でアレンジして食べようと紅ショウガや玉子などで工夫し、そのニーズに上手く食い込んだのが「つゆだく」だったのだろう。そのままの牛丼と、玉子(ギョク)入り牛丼は味が違ってくるし、紅ショウガ山盛りの牛丼でもまた味わいがかなり異なる。そのバリエーションに加わったのが「つゆだく」の牛丼、という図である。
なお、「つゆだく」に玉子を入れるのは邪道と言われている。そして「つゆだく」に紅ショウガを山盛り入れた牛丼は、辛すぎて酷い味になるが、しかし、……人によっては中毒をもたらすほどに美味しい牛丼と化す、らしい。