A「ほんとうにいきなりステーキなの?」
B「名前はそうやが、中身は満を持してステーキや」
出典元、2chスレッド「いきなりステーキの従業員やけど質問ある?」より。どこかの二人のやり取り。
一時期、匿名掲示板で人気を集めていた「○○だけど質問ある?」系のスレである。特に飲食店のアルバイトが内情をぶちまけるタイプのものは、その店を利用している人にとってとても興味を惹かれる裏話だったため、人気が高かった。これは外食業界に彗星のごとく登場し、快進撃を続けたと思ったらあっという間に爆死……ing現在進行中のステーキ店、「いきなり!ステーキ」のアルバイトによる裏話スレだった。
「いきなり!ステーキ」は立ち食いステーキという新しい形態で人気を集めたステーキ店で、完全に元祖という事もないのだが、聞くだけでもその目新しさに興味を惹かれる人は多いだろう。ご馳走の王様であるステーキを、立ち食い形式で提供するだなんて、よく考え付いたな、その発想はなかった、なるほど、立ち食い形式で客の回転を上げる事により高級な肉をリーズナブルに提供するのか、そりゃあ凄い! ……と思うよね。いや「いきなり!ステーキ」側としても当初のコンセプトはそうだったと思うのだが、実際のところ今行ってみると全然違う。
A「ほんとうにいきなりステーキなの?」
B「名前はそうやが、中身は満を持してステーキや」
そう、利用した事のない人は名前が名前だけに超高速でステーキが提供されるかに思ってしまうが別にそういう事はなく、じっくりとメニューを確認してのんびりと焼き場まで注文しに行き、しばらくして”満を持して”ステーキが提供される、そういった形態である。全くもって”いきなり”ではないし、わざわざ焼き場に注文しに行って計量してもらうというパフォーマンスを経て、そこから焼かれた上でやっとの事で提供されるので、客の無駄な工程を挟んでいる事を考えると普通の店より遅いかもしれない。もちろん調理の内容がほぼ”肉を焼くだけ”なのでそれなりの早さを維持しているし、最近では席での注文にも対応しているが、それにしても「いきなり」というほどでもない。そして今ではほとんどの店で椅子が用意されているので、立ち食い高回転ですらない。
まあ店名の由来は、前菜とかスープとかをいただいてから遂にステーキが登場するコース料理とは違い、いきなりステーキをどうぞ! というところから来ているらしいが。しかしそれにしてもこの新しい形態が、物珍しさで一世を風靡し、「行ってみたい!」、「うちの近くに出店しないかな?」の声に応えまくって一時期全国350店舗以上出店し……たのにも関わらず営業不振により怒濤の閉店ラッシュに陥ったのは、外食業界の栄枯盛衰が味わえる名エピソードである。
出店しまくっておいて閉店しまくるというのはどう考えても失敗であるし、「増やしすぎたので調整します^^;」で済ますにはお金を使い過ぎた様で現在のところ「いきなり!ステーキ」の未来はとても暗い。悪かったのは経営判断なのだが、それを言うなら初期の経営方針からしてしくじっていたのではないかという考え方も出来る。つまり「いきなり!ステーキ」は、客の回転を上げて高級な肉を安く提供する店にはなっていないのである。上にも書いた様に凄い早さで提供されるという事もないし、安いという事もない。安 い と い う 事 も な い。……安くないの? うん。
別に安くもないのである。標準的な肉200グラムにスープとライスのセットで2000円コース、ここにちょっと肉を大きくしたり質を良くしたりするだけで余裕で3000円が見えるし簡単にもっと行く。「いきなり!ステーキ」の価格帯はこのレベルなのである。安くはない。にも関わらず店の造りが立ち食いの頃から変わっていないため、椅子はあるもののあまり長居しやすい空間でなく、くつろげない。立ち食い用の高いテーブルに高い椅子を付けているだけなので、くつろげる体勢ではないのである。客としては安い物なら割り切ってさっさと食べて店を出るが、高い物を食べたのにまったり出来ない店というのはちょっといただけない。需要としては良い肉をたくさん食べたい人の要望は満たしているため、たまに贅沢をしたい一人客に向いているが、たまにで一人客だと売上は見込めないだろう。そう、良い肉を使っている事と、巨大な肉を食べたい需要はしっかり満たせる店だという事は間違いない。
おそらくはもっとこぢんまりとして、店員と対面式のカウンターのみで、サラリーマンが短いランチタイムに一人で来てかき込んでいくタイプの店だったなら、もうちょっとマシだったかもしれない。ファミリー層にも来てもらおうとか、肉だからワインも楽しんでもらおうとか考えて色々カスタマイズし始めたのが迷走の始まりだったのだろう。やるならもっとシンプルに。そう、他の外食店で例えるなら、ペッパーランチみたいにね。