「ノロイ! よく聞けよ! ガンバがもどってきたんだ!」
出典元、小説「冒険者たち ガンバと十五匹の仲間」より。ネズミの忠太のセリフ。
ネズミの、と言ってもこの物語にヒトは登場しない。大抵ネズミである。主人公のガンバもネズミだ。ここまで聞いて、なんとなく「おや?」と思った人もいるかもしれないが、そう、アニメ「ガンバの冒険」の原作小説である。原作小説も児童文学としては有名な作品だが、さすがにアニメ「ガンバの冒険」の知名度には及ばないだろう。オープニングの「ガンバ! ガンバ! ガンガンガーンバ!」も非常に有名である。
小説とアニメとでは、よくある事だがいたるところで異なった部分がある。ストーリーの流れとしては大体同じなのだが、そもそも「ドブネズミのガンバは、」から始まる小説とそのリアルなネズミの挿絵、それとアニメとでは絵柄が大きく異なる。簡単に言えばキャラがものすごくアニメチックになっている。まあそれは仕方がない。小説の挿絵はキャラ分けが出来ないぐらいリアルネズミなのだから。
そして仲間が切り詰められている。小説では十五匹の仲間がいるが、アニメでは七匹である。別に死ぬのではなく、最初からそれしかいない。小説では上手く役割分担がされているが、作画の事もあるし、毎週山場を作らなければならないアニメには少々多かったのだろう。
アニメの印象としては多くの人が思い浮かべるのは「ノロイ怖いノロイ怖い」だろう。助けを求めて遠くの島から来たネズミの忠太と共に、そこを荒らしているイタチどもを退治しに行くのだが、ボスのノロイがとにかく怖い。ネズミよりはるかに大きく、白く、目が赤くとがっていて、とても凶暴。絵のタッチ自体違う。まさに悪のラスボスである。ノロイを見たあとに実物のイタチを見た人は「え、この可愛いのがイタチ?」と思う事確実である。ガンバあるあると言ってもいい。
しかし小説も結局のところ同じである。挿絵としては確かにイタチなのだが、猛烈な強さと凶悪なリーダーシップを誇り、とても適わないと思わせる相手だった。ネズミたちの冒険は常に絶望感に包まれていた。最終戦は勇気を奮い起こして参戦して来た島ネズミたちも含めての、海上でのまさに死闘である。アニメではみんなで協力しつつも、ガンバがノロイと一晩中戦って一人で倒してしまうようなところがあるのだが、小説はそうではない。
ガンバは助けを呼びに行って不在の中の、仲間たちだけの最終戦だった。ノロイは、威勢だけよかったくせに一人だけ逃げたか、とガンバを馬鹿にする。しかし仲間もガンバが戻ってくると信じているものの、今いないのは確かなのだ。戦いが始まり、初めは戦略的に戦っていたネズミたちだったが、体格差は大きいし、そもそも海での戦いもイタチの方が得意だ。もうネズミたちの負けは時間の問題だった。言い残す事はないか、とでも言うかの様に最後の幕間が訪れる。忠太が叫ぶ。「かかってこい!」と。「とどめをさせ!」とノロイ。「待て!」と再び忠太。
「ノロイ! いいか! まだいうことを忘れていた! ノロイ! よく聞けよ! ガンバがもどってきたんだ!」
ガンバが戻ってきた! そしてガンバは一人で戻ってきたのではない。五十羽ものオオミズナギドリを連れて、というか乗って、空から戻ってきたのだ。イタチとはいえ海上で上空から攻撃されてはひとたまりもない。ノロイはさすがに抵抗するが、それも長くはもたず倒されていった……。
熱い、非常に熱いが、児童文学にしては絶望感のすさまじい小説である。しかし名作な事は確実である。ちなみに次の作品「ガンバとカワウソの冒険」も、仲間を探すカワウソとガンバたちとの物語で、いい話なのだがやはり道中の絶望感がすごい。
本ページの情報は2023年3月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。