「もう僕には 言葉が無いよ 抱えきれない 叫びがあるのに」
出典元、榎屋克優の漫画「日々ロック」第5巻、歌「グッドバイ」より。作詞・作曲、日々沼拓郎。
演奏は、日々沼拓郎率いる「ザ・ロックンロールブラザーズ」。
「日々ロック」、とにかく特異な漫画である。全6巻であるが、6部構成になっていて、かなりはっきりと区切りが付いている。なにせその部が一巻分でしっかり終わると、一旦休載に入るのである。毎回そうなので、そう決まっていた不定期連載という事だったようだ。詳しく起承転結は分析出来ないが、とにかく部の始めは酷い状態で、問題があり、途中色々あって、最後は新曲のライブで締めるというのが毎回の展開である。途中いくらぐだぐだとうだつの上がらない展開になっても、最後には新曲、というか新歌詞が聴けるので、魅力の種類としては最後に必ず解決編のあるミステリー小説に近い。
このような不定期連載になったのは、なんとなく予想の付くところでは、1巻の絵の下手さである。とにかく酷い、雑誌に載せてはいけないレベルである。だから作者の画力のレベルアップを図りつつ、間を空けての連載だったのだな、と思われる。そして1巻で投げた人も多いと思うが、投げずに読み続ける事をお勧めする。中盤からは味のあるちゃんと見られるレベルになり、最終的にはしっかり上手くなっている。
「日々ロック」を語るにあたり、歌詞の存在を外す事は出来ないだろう。バンド漫画において歌唱を、
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の様に歌っている事にしてごまかす演出はよく見られるが、少なくとも「日々ロック」において歌詞は直球勝負、そしてこの漫画の肝である。この漫画を読んだ後に、他のバンド漫画で歌詞を表示しないものを見たら、「楽してるな」、もしくは「そこでもっと面白く出来るのにな」、と思わずにいられないだろう。しかしじゃあこの作者以外にこの歌詞が書けるかと言ったら、それも難しい。
そう、その歌詞が毎度毎度熱いのである。作中、主人公の日々沼は、逃げ出したくなったり廃人になりかけたりしながらふりしぼって歌詞を作る。その演出も効くし、実際にその歌詞がいい。熱くて熱くて熱い。漫画だからメロディがないのに、心に響くのである。
今回紹介した歌詞は「グッドバイ」の一部分。ラブソングである。先輩であり成功しているミュージシャン、マレから「君達にはそういうラブソング」が無いよねと言われ、冷然と侮辱された日々沼が、ヒロインである宇田川咲が倒れた事もあり、彼女に向けて書いたラブソングである。ラストの場面は非常に騒然とし、歌唱のチャンスさえもらえないかもしれない状況だった。そこをマレに土下座してまで頼み込み、5分だけと言われて
ぶ ち か ま し た
のが、この「グッドバイ」である。
君の好きな音楽の 話を聞かせてよ
君の好きなギターの 音色を教えてよ
君の好きなお酒は いくつか覚えてる12月になれば そんなことばかり
流れているのは ルビーチューズデー1人ぼっちの世界 ただ1人だけの宇宙
もう僕には 言葉がないよ
抱えきれない 叫びがあるのにグッドバイ 愛しているしか言えない今日は
グッドバイ 君のことだけ信じて歌うあの日の顔が 思い出せなくなったら
また会おう グッドバイ
実写映画化もされている「日々ロック」だが、それはどうでもいいかな。漫画が熱すぎて、とてもとても。
漫画がアニメ化されて、キャラの声がイメージと違う、の言う人はよくいるが、そのひとレベル上の、みんなの中にあるなんとなくのメロディ。これはどうにも、越えようがない。