「ビブラートで誤魔化さないでよ そんな高音苦しいわ もっとちゃんと輝きたいのよ あなたの力量ってそんなもの?」
出典元、初音ミクの曲「恋スルVOC@LOID」(恋するボーカロイド)より、歌詞の一部。作詞、OSTER project。
「ビブラートで誤魔化さないでよ
そんな高音苦しいわ
もっとちゃんと輝きたいのよ
あなたの力量ってそんなもの?」
どんな歌詞が誰に向けて書かれるかはその歌によって様々だが、「恋スルVOC@LOID」は世にも珍しい、初音ミクから”作曲者へ向けた歌”である。しかもここで取り上げた部分なんかは曲調について文句を言っている。恋人に向けてだとか頑張っているみんなに向けてという歌詞が多い中で、作曲者への歌というのだからとんでもない。そして内容にしても初音ミクが不満げに「そんな高音苦しいわ!」とか言っているものなんだから凄い話である。なお、そこは本当に苦しそうな高音で歌っている。
「あなたの力量ってそんなもの?」
と、なじられる訳だが、このあと律儀にも謝られる。
「ごめん ちょっとさっきのはさすがに言い過ぎたよね
あなたも頑張ってるの 分かっているよ」
2番の冒頭がこれである。その後急速にデレていき、「どんな歌でも歌うから」「これからもずっとよろしくね」といった具合に話の幕が閉じる。ストーリー調の歌詞になっている曲というものもなくはないが、それがどこかの作曲家と歌手の話とかではなく、まさにその曲を作曲した人へ、歌っている初音ミクが語りかけているのだから、やっぱりなんだか凄い。そして歌詞の流れ的にツンデレっぽくなっている初音ミクが可愛い。要約すると「凄く可愛い」。この歌詞は……なんだろう、本来は感情のないはずの初音ミクの感情が、ものすごい”それっぽさ”を持っていて、生みの親に対するツンツンしつつも甘えている感じが、……堪らないのだろうね!
初音ミクの発売日は……、もとい、初音ミクの誕生日は2007年8月31日で、「恋スルVOC@LOID」が発表されたのは2007年9月13日である。つまりたった2週間の早技でこの曲は作られた。当時はもちろん、こういったものを発表する場としてはニコニコ動画しかなかったので、そこで発表されて瞬く間に大ヒットとなった。前身にメイコ先輩という存在があったとはいえ、”声の出る楽器”としてそこまで知られていなかったボーカロイドに注目を集めさせた「恋スルVOC@LOID」は、初音ミクブームの火付け役のひとつとなった事は間違いないだろう。
ニコニコ動画と初音ミクがほぼ同時期に登場したのは、デスクトップミュージック、「DTM」を趣味とする野良作曲家たちにとっては奇跡的な巡り合わせだったと言えるかもしれない。いくら楽器の一つとして声が使えるようになり、インストゥルメンタルではなく声の入った楽曲が作れたとしても、発表する場がなければカルチャーは盛り上がらない。場合によっては昔のMIDIの様に、個人ホームページに絵もなくダウンロードリンクが貼られて、知る人ぞ知る存在になっていたかもしれないのだから。初音ミク、ひいてはボーカロイドがこれだけ盛り上がった理由のひとつにニコニコ動画の存在があったのは間違いない。
そしてもうひとつ……、初音ミクというあのキャッチーな見た目のキャラクターが乗っけられていたのが、大きな要員だったと言えるだろう。13年経っても古さを感じさせない初音ミクのキャラクターデザインの素晴らしさもまた、奇跡的な完成度と言って間違いない。そこにタイミング良く、素晴らしいスピードで「恋スルVOC@LOID」という火付け役の名曲が登場したのだから盛り上がらないはずがないのである。まさに、”最初からクライマックス”。
以下、歌詞の全文を引用する。
ラララ…(わんつーすりーふぉー!)
ラララ…
私が あなたのもとに来た日を
どうかどうか 忘れないでいて欲しいよ
私のこと 見つめるあなたが嬉しそうだから
ちょっぴり恥ずかしいけど 歌を歌うよ言葉をくれたのなら メロディーと追いかけっこ
でも何か 何か違う! 上手く歌えてないパラメータいじりすぎないで!
だけど手抜きもイヤだよ
アタックとかもうちょっと気を配って欲しいの
ビブラートで誤魔化さないでよ
そんな高音苦しいわ
もっとちゃんと輝きたいのよ
あなたの力量ってそんなもの?ごめん ちょっとさっきのはさすがに言い過ぎたよね
あなたも頑張ってるの 分かっているよ私も割りと じゃじゃ馬なところとかもあるし
喋りとか上手くないけど 側に置いて欲しいよ私のこともっと手なずけて
気持ちよく歌えるように
メイコ先輩にも負けないくらい 頑張るからね
あなたの曲案外好きだよ?
高い音でも頑張るわ
だからずっとかまって欲しいの
遊んでくれなきゃ フリーズしちゃうよ響かせてキレイなレガート
心揺さぶるフォルテ
一つ一つ作り上げて 命吹き込むからいつまでも一緒にいるよね
どんな歌でも歌うから
ずっとずっと 忘れないでよね
これからもずっと よろしくねラララ…
I love you
I love you forever
So give me your love
to love me forever…ラララ…
初音ミクは確か、東京オリンピックのキャラに内定していたはずである。もし今年行われていた世界線があったとしたら、オリンピック自体の盛り上がりと、そこに賑やかしを添える初音ミク、そういえばこいつも日本のキャラクターだったか、という世界中からの認知があっただろう。そしてオリンピックの熱が冷めやらぬうちでの誕生日。今日は世界的に盛り上がりを見せるバースデーになっていたかもしれない。それは少し寂しいが、まあ、……一年後を楽しみにしていればいいだけの話とも言える。