「究極の後出しじゃんけんをするつもり」
出典元、日経ビジネスの記事「現金決済にこだわる「サイゼリヤ」、社長が真意を明かす」より。サイゼリヤの社長、堀埜一成(ほりの いっせい)氏の発言。
「サイゼリヤってカード使えないんだよなぁ」という不満が聞こえ出してかなり経つが、サイゼリヤは依然としてクレジットカードも電子マネーも使えない現金払いのファミリーレストランとして有名である。一部キャッシュレス決済が使える店もあるにはあるが、デパートやショッピングセンターに入っている店舗のみで、そういう店だとモール内ルールで導入必須だったりするので仕方なく入れているのだろう。そうでない店舗は原則現金払いである。うーん。
普通にキャッシュレス決済を使っている人にとって、現金だけというのは不便だし、理由の分からないこだわりは客からの不満を持たれやすい。これはまあだいたい吉野家のせいで、いつまで経っても食券制にしてくれない理由が「客とのコミュニケーションを大事にしたい」とかいう訳の分からないもので客から大顰蹙を買っているのは有名な話である。それのまあ風評被害か。ではサイゼリヤがキャッシュレス決済を導入しない理由はなにか。その理由をこのインタビューで社長が答えている。
すなわち、しない訳じゃない。しかし1100店舗もあるのでハード台が掛かる。それに導入したあとで新しい決済方法が現れてそれへの対応でまたお金が掛かったりしては堪らない。なので、しばらくして新しい決済手段が出揃ってから一気に導入する。要約するとそういう話だった。
「最終的には乗るんですよ。キャッシュレスはやるんです。でも究極の後出しじゃんけんをするつもり」
お、おおお。
とても納得させられる理由がそこにはあった。そして別に現金に変なこだわりを持っている訳でもなかった。つまり店側のこだわりで客に不便を強いていた訳ではなかった。ここが大きい。この堀埜社長の考え方は、昨今の”Payブーム”を見ていれば、なるほどと思う人も多いだろう。「PayPay」の怒濤のキャンペーン攻勢を見て雨後の竹の子の様に大量発生したPayたち。「LINE Pay」「楽天ペイ」「メルペイ」「Amazon Pay」、これ以外にもまだまだある。どれにどこまで対応すれば客は納得するのか。そんな事を言っているうちにまた新しいのが登場し、対応に追われ、そして一年後にどれが生き残っているかも定かではない。バーコード決済ものならソフト的に対応出来る? それはテクノロジー的な意味であって、ソフト開発会社がそれをどう見積もると思っているのか。そして前からあったICカードも使ってる人いるよね? Edyはどうするの? Suicaは? ナナコは? ICカードのリーダ・ライターが必要です。あ、そういうの使ってないんでクレジットカードでいいですか? はい、読み取りはもちろん磁気スキャンです。そう、ハードとして考えればあれもこれも必要なのである。こんなの逐一対応していたらお金がいくらあっても足りない。
その対応策がつまり、タイミングを見極めて生き残ったものにだけ乗っかる「究極の後出しじゃんけん」なのだろう。この戦略も賢いし、インタビューで言ってしまっているのも面白い。ここまで言われたら納得せざるを得ない。説得力が凄い。堀埜社長はそのあとの話でも、キャッシュレス決済を使うのは男一人客で、家庭のお財布を握っている主婦にはあまり響かないと語っている。これはショッピングセンターに入っていてキャッシュレス決済を導入している店舗からの分析なので、決め付けとか偏見ではない。そういったデータを元に、柔軟な考え方で、これからもサイゼリヤ経営の舵を切って行くのだろう。やはり偉い人のぶっちゃけトークは興味深いし、「究極の後出しじゃんけん」というワードが既に面白い。