「うまいんだな、これがっ」
出典元、サントリーモルツの新聞広告より。一倉宏作の作。
CMでも使われていたと思う。キャッチコピーというものの威力の大きさを思い知らされる名コピーである。聞いた事のない人はいないのではないか。ただ、モルツとすぐ連想出来るかは微妙なところで、あ、このコピー、ビールのCMで聞いたやつだ、と思う人は多いだろうが、中にモルツの名前を出していないので、ビールに詳しくない人には「何かのビールのキャッチコピーね」と思われてしまうかもしれない。しかしこのキャッチコピーが素晴らしい出来な事は確かである。
作者の一倉宏作は、その商品の美味しさを伝えるキャッチコピーを作ってください、と言われて色々と考えただろう。世の中にはひねったキャッチコピーもたくさんあるし、他社と比べてこうとか、生活に絶対必要じゃなくてもどうとか、本当にたくさんある。が、このキャッチコピーの秀逸なところは、”ストレートなのに印象に残るところ”、だろう。つまりビールが美味しく出来ました、宣伝してください。はい、「このビールは美味しいです」、出来ました! ある意味ほぼこれなのだが、文字を組み替え、ひらがなにし、読んでみて音のいいフレーズにしたら、こんな印象的なキャッチコピーになった。
「うまいんだな、これがっ」
うん、すごい。言の葉の魔力を感じる。コピーライターが普段キャッチコピーだけ考えていればいい職業なのかは知らないが、これだけ後世に残る作品を作れたなら、コピーライターとして本望だろう。日本人の誰でも知っているし、長年に渡り使われている。
また、これだけ認知度が高いと変形に使えるという利点がある。「~んだな、これがっ」と言われれば、ああ、と思ってもらえるし、ネガティブな返事もギャグに出来る。「この日、シフト変わってもらえませんか?」、「無理なんだな、これがっ」。うん、お願いを断っているのにあまりトゲがない。「それ1個もらえませんか?」、「ダメなんだな、これがっ」。これだけ短い文である。非常に汎用性が高い。「今日傘持ってきました?」「ないんだな、これがっ」。やはり「だな、これがっ」が重要ポイントか。元はギャグではないのにやはりギャグっぽさに引っ張り込める。もちろんポジティブにも使える。「例の企画、やっぱり没でしたか?」、「OKだったんだな、これがっ」。
キリン一番搾りを飲んで思わず感想が出る。「うまいんだな、これがっ」。あ。