「ああ、あの運転の上手い人」
出典元、不詳。カテゴリーとしては、素直な感想。
女性の運転する車で4、5人でどこかに向かっていた時の事である。目的地も目的も不明だが、とにかく運転しているのは女性で、車内には男女混合年齢層もバラバラな感じだった。女性が運転していたのは、その車が、その女性か、その女性の家族のものだったからかもしれない。特筆すべきはその車がマニュアル車だった事である。たまたま乗り合わせていた男性の中で、マニュアルの免許を取ったばかりの人がいた。あれ難しかったよなぁ、上手くいくと気持ちいいんだけど、とか思いながら、なんとなく後部座席から他人のギアさばきを見てしまう。
運転手のその女性は、特徴というかクセというか、とにかく左手をギアから離さず、離さないというか常にカラカラといじりっぱなしの様な状態で運転する人だった。もちろん常にギアをいじり続けていたら運転がままならないのだが、クラッチを切っていればギアを動かしても問題は無い。また、シフトチェンジをしない程度の”あそび”を確認しつつの動作だったのかもしれない。とにかくさわり続けて動かし続けて運転していた。ちなみに会話にも参加していたので、慎重に慎重に、という訳ではなく、その運転の仕方に慣れきっていての行動だったのだろう。そしてその免許取り立ての人以外には、見なれた光景だった様だ。
と言ってもただいじり好きなだけという訳でもない。もちろん加減速によりシフトチェンジも行う。赤信号が見えて来て、前の車と共に減速する……、軽やかにシフトダウン。もちろん足でクラッチも操作している。しかし止まると見せかけて信号は青に変わったので、前の車は加速に切り替わる。こちらの車も軽やかにシフトアップ。とにかく左手でやや神経質なほどにギアをいじっているのは置いておくと、とてもスムーズにシフトチェンジを行っていた。初心者ドライバーに取っては「おおー、すげー」である。女性が軽々と乗りこなしているというのもあるが、とにかく自分が苦労したものを荒くもなく、集中しきってでもなく、ごく自然に、しかし周りへの注意も怠らずやっていたのだ。
その後、車から降り、時間も経ち、その運転手の女性がいない場面があった。ただ、同乗していた人はいた。帰りはまたあの人の車に送ってもらうよ、という様な話をしていた時だったかもしれない。
「ああ、あの運転の上手い人」
本人がいなかったからかもしれない。初心者ドライバーの口から、とても素直な感想が漏れた。それに対する周りの人の反応が以下である。
「あはは、言われちゃったねーw」
「上手い? ああ、そうかもしれないねw」
「いや、あれでもよく運転してるからw」
完、全、に、逆の意味で伝わってしまったのである。
なんという事か。え、ギアを神経質に触りまくってるから? それが運転中ずっと見えてて気になるから? 初心者ドライバーにとっては、”それはそれ”として、スムーズなシフトチェンジに感心して心からそう思って言ったのである。スムーズというのは振動が少なかった事も含む。発進や停止も丁寧だった。習ったばかりだから気にしていて、上手いなーと思ったから素直に言っただけなのである。馬鹿にする意図など全くなかった。しかしそう伝わってしまった。オートマ車に慣れきった人にとって、不思議な光景だったからなのか。運転をしない人たちばかりで、とにかくギアを触るのだけが気になって運転が下手だと思っていたという事か。果てしなく謎である。
そして、このエピソードによる教訓は、ない。